[概要] ホームオフィス(Overtime B) Part 2 (Pixiv Fanbox)
Content
概要
Overtime Bルートの続きです。
(とはいえオムニバス形式っぽく感じるかも)
意外と書きたいエピソードを書かないと着地できないようなので、パラレルで想定していたプロットを全てぶち込むことにしました。
今回は二種類の話を含みます。
前半部分は注射の話で、後半部分は夕食を食べる話です。
後半の比重のほうが大きいので、今回のサンプルは途中を省略して後半部分を抜粋しています。
サンプル
(2,800字/13,000字程度)
12.
(中略)
13.
一息ついた後、二人は夕食にすることにした。
調理するのは安藤だ。
調理と言ってもそう時間はかからない。茹でた鳥の胸肉をミキサーにかけ、それを皿に入れて、フローリングの床に置くだけなのだから。
床に置かれたそれを見て、岩本は訝しんだ。
「安藤、これはどういうつもりだ?」
それはどう見ても動物用の餌皿だった。中に入っているものも、人間の食べる料理といえる代物ではない。すぐそばにテーブルがあるにも関わらず、床に置くというのも不可解だった。
「まさか俺にこれを食えと言うつもりなのか? お前がどうしてもというなら、やってやれないこともないが……」
岩本の様子を見て、安藤は失敗したと言わんばかりに自分の額を叩いて謝った。
「すみません、うっかりしていました。今、直しますから」
そう言いながら、安藤は急いで岩本の肩に手を置いた。
岩本に対して、普段から極力『違和感』というものを排するように心がけている。 なにしろ『違和感』を覚えながら生活するなんて、それはとても不幸なことだ。
安藤は、岩本のことを心から愛しているのだ。だから、愛する岩本に対して、不幸になってほしいと思うはずがない。そんなの当たり前の話だ。
岩本に幸せに日々を送ってもらいたい。
そんな願いを込めて、岩本が本来ならば心の底から拒んでしまうような、おぞましい行為であっても、それをごくごく自然に、当たり前のこととして受け入れられるように安藤は配慮していた。『違和感』を抱くことがなければ、どんなことをさせられ、どんなことを考えさせられ、どんなふうに弄ばれたとしても、岩本は幸せな日常を送ることができるのだ。岩本の伴侶となる安藤にとって、もはや岩本を幸せにすることは責務といえる。
安藤はそう考えていた。
肩に手を置かれた岩本は、操り人形の糸が切れたように、だらりと首を垂れた。
「こうやって手を置かれると、岩本チーフは何も考えられなくなって」
言いながら、安藤は岩本の首元に唇を寄せる。
「いつものように、都合のいいように思考や記憶を、僕に言われるままに書き換えられてしまう、可哀想な操り人形になってしまうんでしたね」
「……ああ、そうだ。俺は、安藤にとって都合のいい操り人形だ」
従順に『操られている』ことを認める岩本に対して、安藤はまるで愛玩動物に対するそれのような親しみを感じて、頭を撫でた。
「チーフは、自分のことを僕の上司だと思っているかもしれませんが、これからは僕のペットになるのです」
「俺は、安藤のペットになる……」
「チーフが僕のペットであるということは、岩本チーフの飼い主は誰ですか?」
「……俺の飼い主は安藤だ」
安藤は繰り返し、岩本がペットであるということを念押しして認めさせ続ける。
『違和感』を取り除くには地道な刷り込みというのは大切な作業だ。
岩本は虚な目をしたまま、繰り返し頷き続けていた。
安藤が、この特別な能力に目覚めることができたのは、会社員時代の岩本と出会ってから少し経ったあとのことだった。能力に目覚めるまでは、岩本に対して多少の慕情は抱いていたものの、関係性は至って健全なものだった。
しかし、他人を思い通りに操ることができる能力が、もしも降って湧いたとしたんらば、慕情を抱くような相手と果たして健全な関係性を保てるだろうか。
安藤は、むしろ比較的理性を保ったほうだったかもしれない。赤の他人に対して能力でちょっかいをかけて欲求不満を解消することは確かにあった。しかし、自分の本当の欲望をひた隠しにしながら日々を過ごしていたのだ。
まあ、それも長く続くことはなかったのだが。
実際のところ、安藤にとって能力は降って湧いたギフトに違いなかった。
それはある日突然に、他人から、分け与えられたものだったのだから。
パチン。
手のひらを叩く音が響くと、岩本ははっと顔を上げた。
「チーフ、どうしました?」
「いや、少しぼうっとしていただけだ。それよりも」
答えながら、岩本は首を傾げた。
――どうして、俺は立っているんだ?
岩本は、改めて自分の身体を見下ろした。
まず、全裸である。太腿の付け根からはペニスが垂れ下がっている。
これは、問題ない。
鍛えらえた二本の脚は、堂々とまっすぐに伸ばされている。成人男性の平均よりも大きく分厚い足はしっかりと床を踏み締めていた。
これが、おかしい。岩本は思った。
岩本は膝を曲げて、ゆっくりとまるで和式便座に座るように腰を下ろした。
踝を立てて、その上に尻を乗せると自然と股が広がる。両手で両膝を掴んでいるせいか、腕や肩の筋肉が強調されてみえた。相撲取りのような構えだ。筋肉質な身体の岩本がそうやって構えるとなかなかに勇ましい印象を受ける。しかし、顎を上げて目の前の安藤を見上げた途端に、そのポーズを見て印象は少し違ったものに変わった。
自分の姿を見ている安藤が、笑いを堪えるように口元を押さえていることに気づいた。
「何を笑っているんだ。俺に何かおかしいところがあるか?」
「おかしいことなんてないですよ。ただ、なぜチーフは床に座っているのかと思いまして。ここに椅子がありますよ。こちらに座ったらどうですか?」
「馬鹿をいうんじゃない」
岩本は呆れたように言った。
「あのな、椅子というのは人間が座るためのものだろう」
「ええ、そうですね」
「だったら、俺が椅子に座るのは明らかに間違っていることだ」
「それは、なぜですか?」
安藤は岩本が問いかけに答えるのをじっと食い入るように見つめていた。そこまではっきり教えてやらなければ分からないのかと、岩本は少しムッとしながら答える。
「それは俺が、安藤のペットだからだ。ペットが床に座るのは当然のことだろう」
「ああ、すみません。チーフは僕のペットでしたね。うっかりしていました」
安藤の言動に、岩本は少しずつ苛立ちを覚え始めていた。
まるでふざけて揶揄われているようではないか。
「うっかりするもなにも、どう見ても俺はペットだ。それなら一体、お前は俺がペット以外の何に見えるっていうんだ?」
そう問いかけると、ニヤニヤと笑みを浮かべていた安藤は急に真顔になった。
「いや。僕には、ペットに見えないですよ。チーフ」
まさか否定されるとは思っていなかった岩本は少し狼狽えた。
だが、臆せずに食い下がる。
「じゃあ、安藤。お前には、俺がどう見えるっていうんだ?」
「ただの成人男性です」
安藤は顎に手をやり、岩本を見ながら少し考える。
「筋肉質な男性です。全裸なので筋肉質なのはよく分かります。非常に身体も大きく見えます。身体からは男性特有の体臭と汗の匂いがしているので、少しむさ苦しい印象がありますね」
安藤はそう言いながら、岩本の腕に触れた。
「腕もこんなに太いですね。これだけ太い腕を使えば、大抵の人間を力任せにねじ伏せることもできるでしょう。もしも暴力を振るわれたら、僕なんてひとたまりもないです」
次に、安藤は岩本の髭に触れる。