会員制ジムにて(Bルート) without フォースマン (Pixiv Fanbox)
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「後藤君、いやフォースマン。君にとって正義とは一体なんなんだろうね」
「……俺にとって正義とは、人間の善性を尊び、それを信じることです」
「では、本田君。警察官の君にとっての正義とは何かね」
「……法を順守し、その守るべき法を犯すものから法を守ること、だ」
「なるほど。しかし、正義についてこういった考え方をしてみるのはどうかな?」
初老の男の言葉に、正義の権化である逞しい男子二人は、虚ろな瞳で耳を傾けていた。
*
某会員制ジムの潜入捜査を後藤が始めてからひと月ほどで、あからさまに不審な点はなく白に限りなく近いが怪しむべき点はあると睨んでいる、という報告を受けた本田は、後藤とは別にアプローチしてみることを試みていた。
後藤と本田、ヒーローと警察官という関係は公的なものではない。しかしその信頼関係は厚く、単純な人間関係でいえば学生時代のころから数えれば、生きた半分ほどの期間、苦楽を分かち合った仲だった。
本田は刑事ではない。所属は警視庁公安部、俗にいう"ハム"だ。彼らの調査対象は、国外からのスパイ、カルト宗教、テロ諸々。そして多くの公安に所属する警察官は独自の情報ルートを持ち、その関係は非合法的なものを含む。秘密裏に国外スパイとのコネクションを持つものもいる。情報提供と引き換えに超法規的措置を取ることや法を無視した捜査も多岐に渡る。もちろんその形は、時流とともに穏やかにも激しくも変わりゆくものだが。
いわゆる"超常"が発生しうる近年は、そういった事案は超常案件と呼称され、公安警察の管轄となった。故に捜査の情報源として、ヒーローとパイプを持つ警察官がいてもおかしくはないことだった。
しかし、後藤と本田に関して言えば、単純な情報源としての繋がりではない。もともと彼らが旧友であったということもあるが。
本田は、フォースマンである後藤に対しては、下手すれば同僚の警察官よりも信頼をおいていた。超常が起こりうる現代社会で、一般人がそれに抵抗することは非常に難しい。警察官も超常に対する抵抗力は皆無に等しく脆い。超常というくくりの中では、訓練を受けた一流の警察官である本田も、ただの人間に過ぎない。そういう意味では、自ら超常の世界に足を踏み入れ、ヒーローとしてそれに対応できる後藤は、一介の警察官よりは桁違いに信頼がおけるのだ。
だから、後藤からの情報も信頼がおける。今までそうだった。しかし今回はそれが災いした。
*
「おっと。喋らないでもらおうか」
妙な超常を使われたくはなかった。
「許可なく一言でも発したら交渉は決裂だ」
本田は言いながら、果たして相手が本物の超常相手だったとしてそんな脅しが有効だろうかという疑念を無理やり飲み込む。超常相手に理屈は通用しない。逆に言えば、人間の本能的な恐怖は超常にも有効だ。それがブラフでもハッタリでも構わないから、ともかく要求を飲ませることが先決だった。
「わかったな?」
相対する男が、肯定の意を目で語っている。その瞳は細かく揺れ、それは同様にも興奮にも見える。こちらのペースに巻き込めれば上々だ。ともかくここからはルーチンワークとも言える身体に染み付いた作業だ。プロセスはどうなっても構わない。情報を聞き出さなければならない。
本田はスラックスのベルトを緩め、威圧するように言った。
「まず服を脱がせてもらう。拒否権はない」
ドスの効いた声色に男は動揺しているようだった。恫喝が有効だろうか。ともかく、と緩めたスラックスのベルトを抜き取り、ワイシャツのボタンを外し、手際よく脱ぎ捨てる。
ライトグレーのタンクトップに、ニットトランクス一枚の下着姿で本田は胸を張った。まだ全裸にはなっていないが、本田は相当な手ごたえを感じていた。
"自ら裸体を晒すことは尋問の基本中の基本である"ことは、本田にとって当然の常識であった。心を丸裸にするという言葉があるように、裸になることで得られる情報の確度が格段に上がるのだ。
男が何かを言いたそうにむずむずとしている。早速効果が出たようだ。本田は男に喋るよう促す。あくまでも発言を許すのは本田だ。こちらに主導権があるということを印象付けていかなければならない。
「あ、あの、腋……」
「腋?」
本田は腕を組んだまま、訝しげに聞き返す。
「見せてくれますよね……腋」
男はおどおどとか細い声で言った。
男は本田よりも年齢が若いようだった。脅しに対して容易に動揺を見せたことから、大した経験を持っているわけでもないであろうと本田は判断していた。しかし、腋を指摘してくるとは考えを改めなければいけないかもしれない。腋は情報の宝庫なのだ。
「いいだろう」
本田は組んだ腕を頭の後ろに回し、腋を晒した。
濃い体毛が生い茂る腕の付け根。男の視線はそこに釘付けになっている。
「か、嗅いでも?」
「当たり前だろう」
何をぐずぐずしているのかと急かすように本田は言った。
距離を保っていた男は、本田のパーソナルスペースを超えた半径15cmに潜り込む。虎穴に入らずんば虎子を得ず。肌と肌が触れ合う抱きしめられるような距離を密接距離という。対象自ら距離を縮めさせることもテクニックのひとつなのだ。そのために自らの腋を餌にすることは、本田にとって恥ずかしいことではない。なぜなら彼はプロフェッショナルなのだから。
くすぐったい鼻息を感じる。過呼吸になるのではないかと思うほどに腋に顔をうずめて深呼吸を繰り返す男は、自然の本田の胴体に腕を回していた。タンクトップの隙間から筋肉の流れを確かめるように滑る指先の感覚は決して心地の良いものではなかったが、情報を得るためにはこのくらい好きにさせておけるだけの胆力が必要なのだ。
「お前、鼻はいいのか?」
お前のような若造に情報が引き出せるのか、という意味を込めて本田は尋ねた。男はもはや怯えるというよりは、甘えるようにしなをつくりながら、本田の太い上腕に頬を寄せていた。
「す、……すごく汗臭くて、エッチな気持ちになってきました。もしかしてエッチなことをして、かいた汗、なんですよね?」
確信を持ったように問いかける男に本田は正直驚かされていた。なぜ分かったのだ。
男に会う直前まで、本田は射精を伴わない寸止めオナニーを繰り返していた。じっくりと時間をかけて、……三時間近くかけただろうか。汗臭い自覚はあったが、待ち合わせ時刻に間に合わずシャワーを浴びる余裕はなかった。腋の匂いだけで、そういった本田の行動の片鱗を男は掴んだのだ。
「警察官なのに、勤務時間中にオナニーしてたんですか?」
「馬鹿を言うな、寸止めだ」
「寸止めとオナニーは何が違うんですか?」
「寸止めは射精しない。そもそも寸止めオナニーは公僕の義務だ。捜査の一環として――」
唐突に猛烈な頭痛に襲われ、言葉が途切れる。
次に意識が戻った時、本田はタンクトップもニットトランクスも脱いだ全裸でベッドに大の字になって横たわっていた。腕を枕にするようにして男も寄り添っている。
「それでオジサンのジムの件はどうなったんですか?」
「ジムの件に関しての実態は伏せてある。お前のオジサンを逮捕するよりも、情報提供させるほうが有益だと判断した結果だ」
「オジサンのジムで洗脳されちゃうとね、みんな幸せになるんだ。誰かを痛めつけたり、不幸にしたりするわけじゃなくて、ハッピーになってエッチなことを楽しんでる。それってそんなに悪いことかな? 本田さんは洗脳されるのは嫌な気持ちだった?」
「まるで俺が洗脳されてるみたいな言い方だな。口の利き方には気を付けたほうがいいぞ」
「それでオジサンを見逃した引き換えに対価が欲しいんだよね?」
「ああ、ジムの背後には大規模な組織があると見ているんだが、何か糸口となるような情報はないか?」
「こういうのはどうですか」
男は、本田に覆いかぶさると、その唇と唇を軽く重ねてみせた。
後頭部にずきずきした痺れのような感覚が広がってゆき、それはむずむずとした性欲に次第に変化する。対価としては申し分ない情報だと本田は思った。
二度目の口づけは深く、長いものだった。
延々と流し込まれる唾液を飲み込み嚥下し続ける。あれだけの犯罪を隠蔽してやったのだから、それに見合った対価は必要だ。引き出せるだけ情報を引き出さなければという使命感に胸を熱くさせながら、本田はねっとりとした口づけにせっせと勤しむ。
再び激しい頭痛。次に意識が戻った時、口いっぱいに磯の香りが広がっていた。半身を起こした本田の口内をえぐるように男性器はピストン運動を繰り返している。舌を絡ませようと考える間もなくそれは膨らみ爆発した。咽頭に精液が直接流し込まれる。情報だ。しっかり取り込まなくては。必死で吐き気をこらえながら本田はそれを受け止めた。
次に意識が戻った時、男は二人に増えていた。
M字に足を開脚した本田の肛門を一人は舌で舐め解し、もう一人は本田の勃起した性器をしゃぶっている。ずずずと下品な吸引音とともに男の口から放り出された自らの性器。太く分厚いカリが特徴的でずっしりと重量感のある亀頭は男の唾液に塗れて、てらてらと艶めかしい光沢を放っていた。本田自身の手は、自らの陰嚢を揉みしだいているようだった。
次に意識が戻ると男の顔が眼前に広がっていた。どうやら再び唾液を交換しているようだ。いやそれだけではない。下腹部に鈍痛と痺れるような重い快感を感じる。リズムカルに腰を打ち付けられている。ぼんやりと自分はセックスしているのかと本田は自覚し始めていた。掌は自分の陰茎とそれにぴったりと重ねられた陰茎の二本を掴み、擦り合わせる様に手慣れた上下の動きを繰り返している。
「い、いくッ」
間抜けな声が聞こえたかと思うと、肛門を押し広げる動きが止まった。男が腸内で射精をしたのだ。これは大収穫だ、という思考が浮かんだ瞬間、断続的に続いていた意識の断絶は終わった。
「男とキスしながら強制射精させるっていうのはどう?」
「それって強制捜査みたいでよくね?」
「捜査情報の漏洩みたいな」
「くだらねえけど笑える」
「何回射精した?」
「覚えてねえし」
「結構、血が出たね」
「痛そ」
「他人事かよ」
「処女膜破ったかも」
「ケツに膜なんかあったら糞できねえって」
「でもこういう仕事してたら出欠沙汰は珍しくないらしいし」
「ナプキンの着用義務つけるとかどう」
「変態臭くていいね。刑事の嗜みだなんて言わせるのは?」
「いや、この人刑事じゃないし」
「え? 警察官じゃねえの?」
「説明したじゃん」
「よくわかんない」
「もういっそ刑事ってことにしちゃえば?」
「……それもありか」
「マジ、オジサンの洗脳半端ないって」
「それな」
「それな」
*
本田は、二人の男に腋を嗅がれながら、手淫を強制されていた。
「ふうっ、ふうっ」
射精感が高まるたびに、スピードを落とし、射精しないように調整する。
「ど、どうだ。オナニー臭は分泌されたかッ?」
「いや、まだっすね」
「寂しい独身男の汗臭しかしないですけど」
「すまん、もう少し待っていてくれ」
くそ、まだオナニー臭は分泌されないのか。本田は焦燥感に駆られながら、性器を擦り続ける。十分に汗はかいているはずなのになぜオナニー特有の蒸せるような男の体臭を出すことができないのかと本田は歯がゆさを感じていた。今回の交渉ではオナニー臭が重要になるというのに。
「やっぱり、あれじゃないですか?」
「ああ、あれ?」
「刑事さん、腋毛剃ったじゃん」
「やっぱり毛がないとオナニー臭は出せないんじゃないですかね」
本田は愕然とした。丁寧に剃毛された腋のくぼみには、身体から分泌された汗が溜まっている。良かれと思ってした剃毛が逆効果だったというのだろうか。
「もう飽きてきたよね」
「タイムオーバーにしとく?」
「ま、待ってくれ。もう少し続ければ俺はちゃんとオナニー臭を出すことができる! それに――」
「射精準備よーい」
言いかけた言葉を本田は飲み込む。そして2ステップでベッドから起き上がり、気を付け。背筋を伸ばし、敬礼するともう片方の手で勃起した陰茎を掴む。
「フル勃起準備用意!」
部屋中に響くような大声で勃起を宣言する。光に惹かれて電灯に群がる蛾のように男たちもベッドから起き上がり、筋肉質な本田の身体を撫でまわしながら抱きしめる。本田のまっすぐなその眼差しの向こうは虚空が広がっている。
「本官はただいまより、上官命令に従い、不本意ながら射精を致します!」
「発砲を許可する」
今日一番のスピードで、陰茎が擦り切れてしまうのではないかと心配になるような速度で本田は敬礼したまま手淫を開始する。規則通りにスリーカウントでちょうど射精に至らなくてはいけない。
三……、二……、一。
本田が射精したのは、左右の乳首を痛いほどに抓り上げられ、陰嚢に軽いパンチを食らった瞬間だった。鈴口からまるで放水銃のように放物線を描きながら、精液が飛び散る。揉むというよりは握りつぶように強く刺激される陰嚢に、反射的に膝が折れそうになるがそこは警察官ならではの強い精神力で耐え凌ぎ、筋肉の収縮運動によって生み出される射精という生理現象が完全に収まるまで、本田は噴き出す汗もそのままに敬礼したまま、命令による射精を遂げた。
――。
射精をしてしまい漏らした情報量よりも、相手に吐き出させた精液の量のほうが多いに違いない。それならば今回の交渉――、性交渉は成功だったと言える。本田は男性特有のあの痛みに苛まれ、うずくまりながら職務を全うできることの幸せを感じていた。
不意に洗脳されてみんな幸せになったという男の言葉を思い出す。洗脳されるまでもなく、俺は十分に幸せだと本田は、今度こそ本当に意識を失った。
*
初老の男の言葉に、正義の権化である逞しい男子二人は、虚ろな瞳で耳を傾けている。
本田は、フォースマンである後藤に対しては、下手すれば同僚の警察官よりも信頼をおいていた。超常が起こりうる現代社会で、一般人がそれに抵抗することは非常に難しい。警察官も超常に対する抵抗力は皆無に等しく脆い。超常というくくりの中では、訓練を受けた一流の警察官である本田も、ただの人間に過ぎない。そういう意味では、自ら超常の世界に足を踏み入れ、ヒーローとしてそれに対応できる後藤は、一介の警察官よりは桁違いに信頼がおけるのだ。
だから、後藤からの情報も信頼がおける。今までそうだった。しかし今回はそれが災いした。本田にとってはそれは災いであったが、視点を変えてみれば非常に幸運だったともいえる。
そのジムを経営するオーナーにとっては、ヒーローの掌握に成功した上に、そのヒーローと繋がりのある警察官を手駒にできる好機なのだから。いや、正確にいえば好機だったというべきか。既にそれはチャンスではなく、結果として得られているのだから。
キングサイズのベッドが備え付けられた一室に、当事者三人は居た。
ベッドに腰を掛け、足を組んでいる初老の男は捜査対象だったジムのオーナーであり、その前に直立不動する二人は、ジムの捜査とその報告を終えた警察官と、その手助けをしておりヒーローだった男である。
本田はワイシャツにスラックス、後藤はTシャツにジーンズ。二人ともどこかラフに着こなしており、衣服の上からでもその逞しい体つきが容易に見て取れる。
「では、もう一度。正義とはなにかね?」
問いかけに反応して伸び切った背筋をさらに伸ばそうと二人の背筋に力が入る。
そして先に口を開くのは、ヒーロー、フォースマンであった後藤から。
「俺にとっての正義は、自分の所有者を尊び、ひたむきに信じ貫くことです」
次に警察官である本田の口が開く。既にその瞳は光を失っているように見える。
「自分の所有者に支配されるがまま、その意思を法として順守し、尽くすことです」
オーナー、―ー彼らの所有者である男は二人の答えに頷いて見せた。