Advent01-04 / 7,500字程度 (Pixiv Fanbox)
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01
12月25日、水曜日。
駅の構内から外に出た途端に、安川は寒さに身を震わせた。
「12月末は、もうこんなに寒いのか」
こんなことなら、もう少し厚手のコートを着てくればよかったとぼやきながら、駅前の広場を歩く。
イルミネーションで彩られた広場は、人で賑わっている。
駅前広場では、すっかり毎年の風物詩になったクリスマスマーケットのイベントが開催されており、それが集客に繋がっているようだった。
特に広場の中心に据えられたツリーの演出が話題らしいと、安川はどこかで聞いた覚えがあった。
しかし、それよりも今の安川にとって魅力的なのは、鼻腔をくすぐる甘い葡萄とジンジャーの香りだった。
ホットワインでも一杯、飲んでいこうか。
一瞬、そんな考えが頭をよぎる。
いやいや、とそんな誘惑を振り払うと、安川は一人、賑わう広場の喧騒を離れて歩いた。
目的地である警察署は、駅からは徒歩で十数分ほどの距離のはずだ。
まさか場所、間違ってないよな。
ふと嫌な予感を覚えて、安川はコートのポケットを探った。
彼が取り出したのは、新聞記事の切り抜きだ。
切り抜きには『同僚男性の飲料に体液混入、容疑の会社員男性を現行犯逮捕』という見出しが踊っている。
続く記事の本文に記されている、警察署の名前を安川は指をなぞり、確認する。
どうやら目的地に間違いはないようだ。
安川はほっと息を吐くと、スクラップを再びポケットにねじ込んだ。
幸いというべきか、当然というべきか。
警察署内はしっかりと暖房が効いていて、安川は手のひらを擦り合わせながらしばらく冷えた体を温めていた。
受付のすぐ傍の壁には、署内の案内図が掲示されていた。
食い入るように安川がそれを眺めていると、背中から声がかかる。
「何かお困りですか?」
穏やかなトーンの男性の声だった。
振り向くと制服姿の警察官の男性が、受付から身を乗り出している。
年齢は20代後半くらいだろうか。
どうやら安川の様子を見兼ねて声をかけたようだ。
「ああ、すみません。場所が分からなくて」
「ええと、どういったご用件でしょうか?」
「留置場ってどこにあるんですか?」
「面会ですか? でしたら、3階の留置管理課で手続きをお願いします」
「分かりました、3階ですね」
安川が答えると、警察官の彼は、何かに気づいたように「あ」と声を上げた。
「すみません。面会の受付は16:00までなんですよ」
彼は、申し訳なさげに受付奥の壁に掛けられている時計を指さした。
目を向けると、既に18時を回っている。
「ああ、そうだったんですね。でも、ちょうど良かった」
安川は頬をかきながら、笑った。
「その留置管理課の受付が終わっているなら」
言葉を区切り、安川は警察官の瞳を覗き込むようにじっと見つめながら続ける。
「直接、あなた自身が、僕を留置場まで案内してもらえますか?」
「……私自身が?」
彼は、少し困惑した表情で、瞬きをした。
「はい。あなた自身が、僕を案内してください」
ほんの少しの沈黙。
しかしすぐに立ち上がり、彼は制服の襟とネクタイを整えると、背筋を伸ばす。
そして、彼は安川に向かって敬礼した。
「はい。面会受付は既に終了しておりますので、留置場まで私自身が直接、ご案内いたします」
02
どうして、自分がこんな目に合わなければならないのだろうか。
留置場の一室。
飯沼和己は、快適とは言い難い冷えたその部屋の中で、膝をかかえて座っていた。
自分の何が間違っているというのだろうか?
彼の頭の中を満たしているのは、そんな考えだけだった。
「あなたが、飯沼和己さんですか?」
深く諦観の中に沈み込んでいた飯沼は、声を掛けられて、初めて彼の存在に気が付いた。
*
父は、悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせてくださる。
『マタイによる福音書』5章45節
*
同僚の飲んでいるコーヒーの中に、いわゆる睡眠薬を混入したことは事実だ。
必死で眠気に抗おうと、うとうとしている男性の姿を見て、確かに性的な興奮を覚えたことも事実だ。あるいは、睡眠薬による睡魔に屈して眠り込んでしまった男性社員の身体に触れたり、その唇を舐めたり、時にはその口内に、自分の唾液を流し込んで飲ませたことも事実だ。
時にはコーヒーの中に精液を、時には尿を混入し、それを飲ませたことも事実だ。
善意で、安くもない薬を使ってやった。
厚意で、仕事で疲れた身体を休ませてやった。
ならば、少しくらいの『お礼』をしてもらって、何が悪いというのだ?
ただでさえ不遇な同性愛者の、ほんのささやかな性欲を満たして、何が悪いというのだ?
「全くその通りですね」
安川と名乗る男は、飯沼の言葉を聞くと、深く頷いてみせた。
「あなたの考えは、何も間違っていませんよ」
ぐびり。
飯沼は、生唾を飲み込んだ。
「君は、安川くん……って言ったっけ……」
「はい。安川です」
「それで……一体、君は何者なんだい?」
それは飯沼にとって、当然ともいえる疑問だった。
しかし、安川はその質問には答えず、曖昧に笑みを浮かべるだけだった。
「はぁ……はぁ……」
部屋の中には、警察官の息遣いが響いている。
飯沼と安川と、そして警察官がいるこの部屋は、デスクと椅子だけのシンプルな部屋だった。
恐らく、本来は取り調べや聴取をするために使われるような部屋なのだと思う。決して『面会』で使うような部屋でないことは、飯沼にも分かった。
あまりに堂々としているものだから、最初は飯沼も違和感を抱くことができなかった。しかし、そもそも面会希望者である安川が、留置場の内部に侵入していること自体が異常だった。
「んっ……はぁ……はぁ……」
何よりの異常は、安川と飯沼に同行しているこの警察官の行動だった。
彼は椅子にも座らずに、彼は門番のように部屋の出入り口の前に立っている。
そして、一心不乱にペニスを扱いている。
部屋に入るや否や、彼は安川に何かを囁かれた。
何を囁かれたのか、それは分からない。しかし、その囁きが終わると、すぐに彼はカチャカチャと音を立てながらベルトを外してスラックスを脱いだ。紺色のボクサーブリーフまでも脱ぎ去ると、彼は堂々と、その立派に成熟した男性器を晒してみせた。
彼は、性器を晒した状態のままで、真っ直ぐに視線を安川と飯沼に向ける。
そして、背筋を伸ばして少しだけ顎を引いたかと思うと、彼は敬礼した。
「XX署、巡査、今井大輔ッ! 只今よりマスターベーションを開始しますッ!」
その時の彼の精悍な表情と力強い敬礼は、警察官らしい凛々しさすら感じさせるものだった。
だが、宣言の内容は、その警察官らしい凛々しさとは激しく乖離している。
白々しさすら感じるほどの言動のギャップ。
まるで『異常性』を引き立てるために計算された演出のようだと、飯沼は思った。
03
空調の良く効いた部屋の中。
左手で陰嚢を握りながら、右手でペニスを激しく扱き、警察官は黙々と自慰を続けている。
飯沼と安川が会話をしている最中も、彼は宣言通りにずっとペニスを扱き続けていた。
今や彼の性器は、完全に勃起している状態だった。
真冬だというのに、湯気が出そうなほどに熱を帯びている警察官の若々しい肉体。
新陳代謝の良い肉体は、だらだらと汗を垂らしている。
「気になりますか?」
警察官の姿を凝視してしまっていた飯沼は我に返る。
安川は立ち上がると、自慰を続ける警察官に近づき、我が物顔で彼の肩を抱いた。
「これはね、僕からの施しなんですよ」
「施し……?」
「正確にいうと、『ご褒美』と呼んだほうが近いかな。そうですよね、今井巡査?」
『今井巡査』と安川が言葉を発した瞬間に、彼は自慰を止めて、再び敬礼した。
「はいッ! 本官にとって、このマスターベーションは『ご褒美』ですッ!」
額に当てている手の指先には、彼の我慢汁が付着している。
「それを言うだけじゃ、飯沼さんには何が何だか分からないでしょう?」
安川は、くつくつと笑った。
そして、彼自身が語り始める。
「留置場まで案内してもらう途中、暇だったので色々と話を聞かせてもらったんです」
安川が話している最中も、警察官は真面目な表情を浮かべたまま、敬礼の姿勢を保っている。
「今日はクリスマスでしょう? 街はお祭り騒ぎで賑わっている。そんな中、彼は警察官として真面目に働いてくれているわけですよ。とても偉いと思いませんか?」
上半身だけを見れば、そして、不自然なほど汗ばんでいることを除けば、彼は真面目な警察官そのものだ。
「こんな日に、真面目に職務を全うしてくれている今井巡査には、ちょっとした『ご褒美』が必要だと思ったんです」
視線を下に向ける。
黒々とした陰毛の茂みは、彼が男性として成熟していることを証明している。
その茂みから太々しい肉棒を勃起させている。
警察官としての精悍な表情。
そして、ひくひくと震える勃起した彼の男性器を交互に見比べるうちに、飯沼は軽い酩酊感を覚えた。
「今井巡査、『ご褒美』は楽しめていますか?」
「はいッ! 本官はマスターベーションを非常に楽しんでいますッ! 『ご褒美』をありがとうございますッ!」
「真面目に頑張ってくれているから、こうやってシコシコとチンポを扱くことを許してあげることで、彼の頑張りを労ってあげている、というわけなんです。それが僕からの施し。つまり『ご褒美』です」
気づくと、飯沼は立ち上がっていた。
「飯沼さん、どうしました?」
「……いや、彼はとても汗をかいているから、僕も労ってあげたい……と思ってね」
「流石は飯沼さん。心が優しいですね。どうぞご自由に労ってあげてください」
警察官は、未だに敬礼を続けている。
静止している彼の喉元に向かって、飯沼は舌を伸ばした。
そして、顎から喉に伝う汗の玉を舐め取る。
最初は遠慮がちに軽く舌先で触れるだけだった。
塩辛い。まさに働く男の汗の味だと、飯沼は思った。
舌先でその汗の生々しさを感じた瞬間に、背筋から脳に向かって何かがゾクゾクと走った。
これが現実逃避によるリアルな妄想なのか、あるいは幻覚の類なのか。
それとも本当に現実なのか、飯沼には分からなかった。
しかし、これが妄想であろうと幻覚であろうと現実であろうと、大した差はなかった。
失うものは残っていないと飯沼は思った。
何もかもがどうでもよかった。
気が付いたときには、飯沼は彼の喉笛に向かって吸いついていた。
塩辛く、そして甘い。男らしい味覚が口内に広がる。
それを味わうたびに、潤い満たされていくような感覚を飯沼は覚えた。
04
「だけど、今井巡査はとても謙虚なんですよ」
敬礼を続ける彼の肩を抱き、安川は無遠慮に警察官の睾丸を握った。
微かに舌に触れる汗の密度が増したように感じる。
「この僕が折角、許可してあげたっていうのに『射精はしたくない』って言うんです。ね、今井巡査?」
「はいッ! ほ、本官は、チンポを扱いて気持ちよくなるだけのマスターベーションで十分でありますッ! しゃ、射精許可は、お、お、お気持ちだけで、じゅ、十分ですッ! あ、あ、ありがとうございま……ぐうっ……!」
彼が喋っている途中に、安川は彼の陰嚢を強く握る。まるでそうやって絞り出されているかのように、警察官のペニスからとろりと透明な体液が滴った。
「今井巡査、折角の僕の厚意を無下にするつもりですか?」
「あ……くっ……うっ……」
彼は歯を食いしばり、『何か』に抗うように喘いでいる。恐らく、彼が抗おうとしている『何か』とは、この非現実的な状況を作り出している『何か』なのだろう。
しかし、彼は勇ましくも、振り絞るようにして言葉を続けた。
「た、大変失礼なのは、承知しておりますが、本官に射精は必要ありませんッ!」
「今井巡査、どうしてそんなに射精したくないのか、飯沼さんにも分かるように、詳しく説明してあげてください」
「ほ、本官は、本日、学生時代より交際を続けている恋人とデートの約束をしておりますッ! 退勤後、彼女と食事をした後に、セックスをしたいと考えておりますッ! 本官は、本日のセックスに備えて、3日ほど射精を我慢しておりますッ!」
その言葉を聞いた飯沼は、静かに彼の首筋を舐っていた舌を離した。
「本官は、本日の彼女とのセックスを、より楽しみたいと考えておりますッ! そのため、『ご褒美』のマスターベーションは、射精せずに、チンポを扱くだけに留めたいと考えていますッ! 射精抜きでも、本官は十分に『ご褒美』を満喫しておりま……んんッ!!」
ほとんど無意識のうちに、飯沼は警察官の唇に唇を重ねていた。
強引に歯列を割り、舌をねじ込もうとする。
「んんっ! ぐっ……うぐっ!」
しかし、警察官は必死に顔を背けて、頑なに抵抗を続けた。
「あーあ、今井巡査。彼女とセックスしたいなんていうから、飯沼さんを怒らせてしまったじゃないですか。残念、『ご褒美』の時間はもう終わりです。ここからは『罰』の時間です」
そう言い放った安川は、警察官の耳元で再び、何かを囁き始めた。
安川がその何かを囁いている間、警察官の身体は時折、びくびくと痙攣した。
そして、ゆっくりと敬礼の姿勢が崩れていったかと思うと、まじないのような囁きが終わる頃には、警察官の両腕がだらりと垂れ下がり、完全に脱力してしまった。
「さて、今井巡査。あなたは、自らの罪を認めて、罰を受け入れますか?」
安川がそう問いかけると、警察官はまるでバネ仕掛けの玩具のように、即座に背筋を伸ばすと、再び敬礼姿勢に戻った。
「ハッ! 本官は公僕の身でありながら、女にうつつを抜かし、私利私欲を満たすために市民様からの折角の施しを断るという大罪を犯してしまいましたッ! 本官は、その罪を認めて、あらゆるホモ行為を受け入れ、金玉が空になるまで射精し、彼女とのセックスのために溜め込んだ精液の全てを同性愛者様に捧げる罰を受け入れますッ! 大罪を犯した本官に対して寛大な……んっ……ちゅ……」
再び飯沼は、警察官の言葉を遮るように唇にむしゃぶりついた。
先ほどまでとは違い、彼は呆気なく飯沼の舌を受け入れる。
同時に飯沼は警察官のペニスを握って、ゆっくりと扱き始めた。
警察官は、意図を汲むように積極的に飯沼と舌を絡ませ合った。
されるがままに甘んじて、口内を舐らせ続ける。
唾液を啜られ、そして流し込まれるがまま、嚥下する。
「んっ……んんっ……」
その間にも、飯沼はペニスを扱き続けている。
徐々にスピードを上げて、緩急をつけて、より敏感な部分を探るようにして扱き続ける。
先ほどまで自慰を続けていたからか、あるいは、精液をたっぷりと溜め込んでいるせいなのか。飯沼の指先を追うように、警察官は腰を動かした。
男という性にあるまじき従順さ、かつ、男という性にあまりにも素直な反応。
飯沼は、脳が痺れるような感覚を覚え続けていた。
女のために、射精を拒み続けていたはずの警察官。
だらだらと先走り液を垂らしながら、彼女とのセックスを待ちわびていたはずの男性器が、男の手コキに対して、それも同性愛者であり、性犯罪者である自分の手によって、呆気なく屈している。
その現実離れした事実を認識するたびに、圧倒的な倒錯した快感が飯沼の脳を満たした。
ねっとりと男同士のキスを続けながら、警察官の呼吸は荒くなっていく。
彼の絶頂が近づいていることが、文字通り、手に取るように分かった。
スパートをかけるように、ペニスへの刺激を強める。
射精に至るその瞬間まで、絶対に濃厚な口づけを続けてやろうと飯沼は考えていた。
こいつには、相応の罰を与えてやらなければならない。
男と舌を絡ませながら、絶頂に至ること。
それこそが彼の犯した罪に最も相応しい罰に違いない。
いつしか飯沼自身も、安川の言葉に感化され始めていたのだろうか。
あるいは、そもそも飯沼自身がそういった思想を持っていたのか。
どちらにせよ、飯沼は刑吏にでもなったかのような気持ちで、圧倒的な支配に酔いしれた。
「うっ……んぐっ……!」
声にならない声を上げて、呆気なくその瞬間はやってきた。
飯沼はそのタイミングを狙って、大量の唾液を警察官の口内に流し込んだ。
ぐびりと音を立てて、警察官は飯沼の唾液を嚥下する。同時に、警察官のペニスの先から、大量の白濁液が迸り、巻き散らされる。
1度、2度、3度。
不随意筋はポンプと化し、次々と精液が尿道を駆け抜けて噴き上がる。その間も、飯沼は警察官の後頭部を掴み、唇と唇を離れさせることを決して許そうとはしなかった。
警察官の生理現象が完全に終わり、尿道を絞り上げ、精液が1滴も残っていないことをしっかりと確認してから、やっと飯沼は彼の唇を解放した。
尚も、執念深く糸を引いた唾液が、飯沼と警察官を繋げていた。
警察官は、射精している間も律儀に敬礼の姿勢を保ったままだった。
額からは大量の汗が流れて、顎を伝っている。
そして、それは精液に塗れたリノリウムの床に向かって、雨粒のように落ちていった。