2017/12/30 ツイキャス即興01の続き(未完成)/ 2900字程度 (Pixiv Fanbox)
Content
*
用を済ませた私は、熱い日差しを避けるようにグラウンドを離れた。
次のターゲットは、ずばりレスリング部だ。
肌色大目で、ぴったり極薄素材のユニフォームで身をつつんだ男たちがくんずほぐれつ戦い合うその競技は、私から見れば卑猥極まりない。少し間違えば、変態性すら孕むそんなスポーツなのだと私は思っている。いや、これは個人的な感想に過ぎないのだが、狩りというものは直感が大切だ。それ故に、私の主観で獲物を狙うべきなのである。
私はあらかじめ調べておいたキャンパス内の順路を通り、レスリング部の練習の活動場所である道場へと向かう。日差しを避けて歩いているというのに、汗が滲んで仕方がない。ポケットから取り出したハンカチで額を拭いながら、足を進める。
その扉を開くと、むせ返るような熱気が溢れだした。
ちょうど青いシングレットと赤いシングレットの二人が、組み合っている最中だった。体格を見るに二人とも四年だろうか。私は何食わぬ顔で道場の隅へと向かう。見覚えのない私に、途中数名の部員が首をかしげているようだったが、咎められることはなかった。
ところで、空間という概念について考えたことがあるだろうか。
ここは、レスリング場という空間で熱気に満ちている。その熱気は決して夏の暑さだけではなく、部員たちの熱意による影響も大きいだろう。
青いシングレットの部員が、赤いシングレットの部員の上に覆いかぶさり、まるで擦りつけるようにして、全身を抑え込もうとしている。
しかし、なぜここはレスリング場なのだろう。レスリング場だと名づけられた場所だからだろうか。ではどこからどこまでがレスリング場なのだろう。壁で区切られた端から端までの空間がレスリング場であるのだろうか。壁と言っても密閉されているわけではないだろう。扉もあれば窓もある。空調や、虫の出入りする小さな隙間もあるかもしれない。しかし、レスリング場であるという空間は、その枠から漏れ出すことなく収まっている。
私は、空間というものを主観的に切り取ったものであると捉えている。
別に哲学を語ろうというわけじゃない。私が語っているのは定義の問題だ。
私は右手の親指を噛み、そのまま左手を壁にそっと重ねた。その瞬間に、この空間、――レスリング場にいる生体全てを『認識』する。
膨大な情報量の濁流にのまれてしまわぬように、情報をふるいにかける。氏名、年齢、性別。その程度が分かれば十分だ。レスリング場には男女合わせて30人弱。
二名、30代の男性が混じっている。こいつらはコーチか何かだろう。
全員、私が支配するのだから構わない。
私は、右手の親指を口内から引き抜くと、壁に触れたままの左手の甲に強く押し付けた。
「だるまさんが転んだ」
私がそう呟くと、先ほどまでのレスリング場を支配していた熱気が、嘘のように霧散し、静まり返る。振り返るとレスリング場にいた全員がその動きを止めていた。
マネキンチャレンジという種類のインターネット動画を知っているだろうか。
その場にいる全員が一斉にマネキン人形のように静止し、その様子を動画で様々な角度から撮影し、まるで時間が止まったように静止した空間を鑑賞するという趣旨のものである。特にスポーツ界ではしばし流行しており、数多くの著名なプロスポーツチームの選手や大学スポーツ選手がチャレンジに参加している。
私の目の前の光景とは、つまりそれと等しい光景である。
激しく組み合っていたシングレット姿の二人は、まるで抱き合うように静止している。腕を組み、その様子を鋭い眼差しで見ているジャージ姿の男も、トレーニングに励む他の部員も、静止している。
私は熱気の残滓を胸いっぱいに吸い込む。レスリングに対する熱意から生まれたその熱気は清々しくも思える。しかし、彼らにはマネキンとして踊ってもらうことにしよう。
私はまず、邪魔な女子部員を含むマネージャーをレスリング場から排除した。
やり方は簡単だ。手で触れれば、静止状態は解除される。その上で、そっと囁いてやりさえすれば良いのだ。
『今日の練習はこれでもう終わりだよ』と。
邪魔者が排除され、空間が男性で満たされていることに私は素直に喜びを感じていた。
私は、まず赤と青のシングレットの部員二人に忍び寄り、先ほど読み込んだ彼らの情報を思い返す。二人とも四年同士で、抑え込まれている方の赤いシングレットの部員が浦川敦。青いシングレットの部員が永峰守弘。
二人とも力強く筋肉が隆起しており、必死の形相だが、今はただのレスリング選手の肉人形に過ぎない。だが、生々しく今も滴る汗が、彼らが生きた人間であることを証明している。
二人はうつ伏せの状態で私に対して背を向けている状態だった。これではつまらない。二人で合わせて200kg近くあるだろうか。私は、床と彼らの身体との隙間に手を滑り込ませて、力を込めてみる。残念ながら簡単には動かせそうにない。しかし、問題はなかった。
私は、赤いシングレットの浦川に、万力のようにしがみ付く永峰の胴回りに、左手の小指を直線的に滑らせる。そう、まるでテープや紐か何かで縛り付けて固定するように、何度か繰り返し指先を擦りつける。同じように下半身、尻周りにも同じように繰り返す。滑らかなシングレットの素材の触り心地が何とも心地よい。
私は小指を立てたまま身体を起こし、彼らから数歩下がった。
「縮め」
くい、と小指が彼らの身体に引き寄せられるような感覚。いや、違う。引き寄せられているのは彼らの身体のほうだ。
私の力では到底抱き起すことができなかった彼らの身体は、まるで糸か何かに結ばれて牽引されるように浮き上がり、90度起き上がる。さらにほんの少し力を込めて、小指を手前に引くと、彼らの身体はぐるりと半回転した。
床に押さえつけようとする青いシングレットの永峰、それに抗おうとする赤いシングレットの浦川。しかし、天地逆転し、無意味に筋肉を膨らませたままのその姿勢は、まるで身体を引っ繰り返され身動きが取れなくなった昆虫か、嘲笑を誘う無意味な何かのパントマイムのようで滑稽に思える。
仰向けになった浦川は、歯を食いしばりながら身を守ろうともがく姿勢のまま静止している。しかし、その太い腿の付け根で強い主張をしているその赤いシングレットの膨らみは、随分無防備に晒されている状態だ。
私は彼の両脚を掴み、おもむろに赤い生地の膨らみに顔を押し付ける。ぐにゃりと柔らかい性器の感触が、シングレットの生地越しに伝わってくる。擦り付けるように顔を上下させながら、深く深く、深呼吸をする。通気性が良く、蒸れにくくなっているであろうはずのシングレットから、決して隠すことのできない蒸れきった男特有の性器の匂いと、かすかなアンモニア臭が、私の脳髄にピリピリした心地よい刺激を与える。