練馬店:幼馴染みバニーさん(新倉メイサ・26)の場合① (Pixiv Fanbox)
Content
ガラス扉に映る自分の姿を、
新倉メイサはほんの一瞬だけ確認した。
喉元に蝶ネクタイ。
胸は何も覆われていない。
肌と乳首の色がそのまま照明を受けて浮かび上がる。
脚の付け根から腰骨まで、赤いハイレグが鋭いV字を描く。
うしろではそれがT字になり、お尻の真ん中を割っていた。
この「制服」で働き始めて数ヶ月。
「慣れた」と言えるほどの境地には、まだ正直到達していない。
裸に近いこの格好の“生身の感覚”は、
いつだって身体のどこかにひりつくように残っている。
扉のベルが鳴いた。
メイサは仕事の笑顔をつくり、入口へ向かった。
入ってきたのはリクルートスーツの青年だった。
その目元にはどこか懐かしい気配があった。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
青年は少し息を整えてから答えた。
「……はい。一人で」
その声が、微かに胸にひっかかる。
どこかで聞いたような響き。
青年は露わな胸とその先端に一瞬だけ視線を落とし、
すぐに勢いよく逸らした。
慣れていない反応で、妙に誠実だ。
「では、お席へご案内しますね」
歩き出したメイサの少し後ろを、
青年が遠慮がちに一定の距離を保ってついてくる。
数歩だけ続いた静けさの中で、
ふと、青年の“息遣いのリズム”が耳に触れた。
(……この感じ……誰かに……)
その微かな気配だけが、胸の奥にじんわりと残る。
──ゲームに負けると泣きそうになっていた、あの子。
けれど、そのときの面影は、
大人びた表情の奥にまだ沈んでいる。
青年のほうも、同じように戸惑っていた。
「この店、SNSで……気になってて」
その声の端に、遠い日の影がふわりと混じる。
だが、まだ互いに“確信”へ踏み込めない。
十年以上の空白が、静かにその手前に横たわっていた。
***
十数年前。
放課後になると隣家の玄関を開け、
「今日こそ勝つから!」と息巻く少年がいた。
ランドセルを放り、
負けると本気で泣き、何度も挑んできた。
“ショウちゃん”
メイサがそう呼ぶと、
「やめてよ! 子ども扱いすんな!」と顔を真っ赤にした。
***
メイサは立ち止まり、青年を振り返った。
眉の角度。
目尻の落ち方。
笑いそうになるときの唇の端。
その全てが一気に線になった。
「……ショウちゃ……くん?」
封印されていた呼び方がこぼれ落ちた。
青年──ショウタは息を呑んだ。
肩が震え、目が大きく開く。
「……っ」
かすれた声が漏れる。
「やっぱり……メイねーちゃん……?」
確信と同時に、
胸の奥で別の感情が爆ぜた。
──まずい。
“メイねーちゃん”が、
裏バニーの姿で、至近距離にいる。
喉がひりつく。
視線の置き場所がない。
呼吸が浅くなる。
赤いハイレグの鋭角。
露わな胸の膨らみと乳首。
照明に浮かぶ肌色。
(見るな……見るな……俺……!)
十年前の初恋の相手を、
裸同然の姿で見ている現実が、
理性のスイッチを壊していく。
だがメイサはショウタの心中の嵐にまったく気づかない。
「えぇーーー! 本当に!?
だって北海道行ったでしょ? いつ戻ってきたの?
今どこ住んでるの? 就職? 東京戻ってきたんだ!?」
十年分の思い出が洪水のようにあふれる。
「覚えてる? うちでゲームやったの。負けるとすぐ泣いてたよね」
「ランドセル放り投げて来て、冬は手が真っ赤で……」
「お母さん迎えに来ても帰りたがらなくて!」
ショウタは、ただ耐えるしかなかった。
彼女が昔と同じ調子で笑うたび、視界の端で揺れるものがあるからだ。
胸元。
生身の肌。
ハイレグの鋭角。
(頼む……離れて……!)
ひとしきり話し終えると、メイサはようやく仕事を思い出した。
「あ、ごめん。ショウくん、お客さんだったね。
じゃあ改めて席、ご案内しますね」
そう言って振り返った瞬間だった。
ショウタの視線が、
ほぼ露わなお尻へ“一瞬だけ”落ちた。
すぐに逸らした。
でも、その揺れは確かにあった。
そしてその瞬間、
メイサはようやく“今の自分の格好”を思い出す。
胸も背中もお尻も、
どこも守られていない。
(……やば……ショウくんに……?)
遅れてきた羞恥が、一気に全身を焼いた。
十数年ぶりの幼馴染に、
こんな姿で再会してしまった。
メイサは反射的に両手でお尻を隠し、
震える声で呟いた。
「……だめ……見ないでっ……」