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 百鬼夜行の夜の路地には、祭りの残り香が漂っている。

 提灯の明かり届かぬ裏通りでさえ、どこかの屋台からの出汁の匂いが鼻をくすぐる。

「ん~……いい匂い。夜のお散歩には最適ですねぇ」

 そんな日常の香りに誘われるように。

 天地ニヤは飄々と、人知れぬ路地を歩んでいた。

 百鬼夜行連合をまとめ上げる陰陽部に、行方不明者が出たという報告が届いたのが、ちょうど三日前のこと。良く言えば自由、悪く言えば混沌のキヴォトスにおいて、誰かがひょっこり姿を消すのはよくあることだが──重要なのは、それが一週間で十七人目、そしてそのすべてが”百鬼夜行の人間”であるという事実だった。

 一人では事故。二人でも偶然。

 しかし三人、四人──十人と続いては、何者かの悪意を疑わずにはいられない。

 ふと、三日前の陰陽部での場面を思い返す。

『ニヤ様……これは…………』

 涙ながらに親友の捜索を訴える依頼人。

 その傍らで言葉を絞り出しながらも、事態への困惑を隠せないでいたカホ。

『これは少々──気張らないといけませんねぇ……』

「にゃはは、こんなに積極的に働くのは、私らしくないんですがねぇ~~。百鬼夜行の人間が消えるとなっては、さすがに重い腰を上げざるを得ないわけでして……」

 ひらりと袖を翻して、古びた倉庫街の角に背中を預ける。

 目を細め──彼女の眼はいつだって細められているのだが──その奥の瞳だけが、暗がりの先を冷たく見据えていた。

「しっかしまぁ、よりによってこんなところに行き着くとは………」

 気づかれぬよう、思考を纏める独り言を吐息に溶かしながら。

 ニヤはじっと、調査中偶然見つけた”事件の答え”──闇に潜む怪しい人影を見つめていた。

「ハハッ、相変わらずチョレ~~♪ ブン殴って一発じゃん(笑)」

「銃奪っちまえばコイツらなんてただの雌だからな。ほら、さっさと済ませんぞ」

 視線の先には筋骨隆々といった風貌の、若い男が二人。

 二十歳そこそこの金髪タンクトップの男と、三十手前と見られる黒髪紺スーツの男。対照的な出で立ちの二人組だが、隙間から覗く肌には共通の模様──龍や鯉といった和彫りの刺青が蠢いていた。紺スーツの男に取り付けられた特徴的な模様のバッジと、第一関節から先がない小指から、彼らが最近百鬼夜行で力を増している犯罪集団であることがニヤにはわかる。

 

「ん…ぐ、ぅ……」

 男たちの足元で呻く女性。

 頬は赤く腫れ上がり、唇からは血が伝っている。結い上げていたらしい髪は崩れて、乱れた毛先が額に張り付いていた。

 傍らには、無残に叩き折られた小銃の残骸。

 金髪の男は機嫌よさそうにそれを蹴飛ばすと、武骨な掌を服の下に潜り込ませ、その胸元を無遠慮に弄ぶ。

 ──もみっ♡ もにゅうぅっ♡

「おっほ、気失った女のおっぱいたまんね♪ 顔もそこそこだし、今回はアタリっすね! 俺も味見してぇなぁ……」

「やめとけ、親父に殺されんぞ。っつーかさっさとコイツ詰めるの手伝えや」

 なおも意識のない彼女の身体を探る金髪の男と、慣れたように収納用の麻袋を取り出す紺スーツの男。あまりに醜悪なその光景に、ニヤは何かを抑え込むよう息を吐いた。

(……決まり、ですね)

 細まった瞳に冷気が宿り、思考は逆に冷えていく。

 燃え盛るような怒りが沸き上がっても、彼女はあくまで慎重に──適切に物事を運んでいった。

(今すぐにでもお灸を据えたいところですが……ダメダメ落ち着いて、冷静に。大元を一気に潰すためにも、ここは先生に連絡を────)

 足音を立てぬよう静かに撤退を始め、ゆっくりとスマホを取り出す。光が漏れぬよう掌で画面を覆い、すぐにでも救援を要請しようと、先生とのモモトークを開こうとした──まさにその瞬間だった。

 ──ガギンッ!!

「んぐぉお゛ッ!?」

 路地裏に響く硬い音と共に、ニヤの視界が白く弾ける。

 脳がかき混ぜられたようにぐらりと揺れ、全身からフッと力が抜けた。

「──ったく、ちゃんと見張っとけっつったろうが。サボってんじゃねぇよ」

 苛立ちを隠せない男の声。

 視界の端で揺れる真っ赤な鉄パイプ。

 徐々に近づいていくコンクリートの地面。

(三人目──読み、違えた………)

 薄れゆく意識の中、ニヤが最後に思ったのは、そんなことだった。

 ♢

 最初に戻ってきたのは、匂いだった。

 煙草の匂いと、磨き上げられた木材のニスの匂い。その奥に、赤黒い──空間に染み付いた鉄錆の香りが混じっている。

「ぅ………」

 無意識に掠れ出た声とともに、ニヤの意識が覚醒する。

 音、温度、痛み。

 最後に瞼を薄く開くと、霞んだ視界が少しずつ像を結び始めた。

 広い部屋だった。

 厳かな装飾のなされた、巨大なホール。周囲には黒張りの応接ソファが並べられ、十数人という男たちがそれに座っている。

 壁には極彩色の虎の絵と幾本もの日本刀。

 そんな典型的な極道の集会場といった場所にて───、

「────っ!?」

 ニヤは己のすべてを晒した、麻縄で拘束された全裸M字開脚縛りで、部屋の中央部に吊るされていた。

「よぉ、起きたか嬢ちゃん」

 ホール最奥、上座に位置する親分席から、低く重い声が落ちてくる。

 額に傷跡を残した壮年の男──組の長と思わしきその人物が、煙草の煙をくゆらせながら、宙に吊られたニヤを正面から見据えていた。

「うちのシノギのことについて、コソコソ嗅ぎ回ってくれちゃってまぁ──そんなに退屈だったのかい?」

 ギャハハ、と下品な笑いが部屋中に伝播する。

 応接ソファに腰を沈めた男たちは、それぞれ煙草や酒杯を傾けながら、嘲るような視線をニヤへと這わせていた。

(………なるほど)

 卓越した彼女の頭脳は、瞬時に自らの状況を把握していく。

 スッと細められた瞳には、それでも隠しきれぬ焦りの光が、ちらちらと見え隠れしていた。

(これは流石に──まずいかもしれませんねぇ……)

 縛られた両腕の感覚が、じりじりと指先から失われていく。

 無理やりに吊るされた身体は節々が軋んで悲鳴を上げ、殴られた後頭部からは未だ、白い明滅が断続的に迸っていた。

 武器、なし。

 連絡手段、なし。

 逃走経路、なし。

 これ以上ないほどの絶望的状況。

 しかしだからこそ、裸体を晒していることも構わずに、彼女の思考は素早く最適に回っていった。

「──にゃはは、退屈なんてとんでもない~♪ むしろ最近お仕事が忙しくて忙しくて、こ~んな素敵な場所にご招待いただいて、本当にありがとうございますぅ」

(救援が来るまで、時間を稼ぐ………!)

 いつも通りの飄々とした笑みを張り付け、軽い言葉を流暢に吐き出す。

 今の彼女に出来るのは、口先だけの言葉で意識をそらし、救援までの時間を少しでも稼ぎ出すことだけ。

 へらへらと薄く笑いながら、無意味な言葉を零し続けていると──あの路地裏で目撃した、紺スーツの男が前に出てきた。

「オイ、クソガキ。俺たちのことについてどこまで知ってる? 見たことを誰かに話したりしたか? 質問に答えろ」

 怒鳴るでも、脅すでもなく。

 ただ簡潔に、問いだけを投げつけてくるその口調。

「……まぁまぁそう慌てずに。おや? お兄さんよく見ればなかなかの雰囲気じゃないですかぁ~~。どうですこの後、仕事が終わったらお茶でも一杯? あぁでも、こんな姿じゃ格好がつかな──」

 放たれる冷たいプレッシャーに一瞬気圧されながらも、ニヤが変わらず軽口を吐き出そうとした──その時。

 ──ドギャ!!

「お゛ぶぉッ!?」

 

 無防備に晒されていたニヤのみぞおちに向かって。

 男の全力の蹴りが、深く深く突き刺さった。

「話聞いてたか? 俺は、質問に答えろって言ったんだ」

「が、は……ごぼ、ぉ………」

 唐突過ぎる痛みの伝播に、ニヤの瞳は限界まで見開かれる。

 ニヤが誤算だったことは、彼らは彼女が初めて対面する、人を人と思っていない本物の悪人だったことだろう。

 彼らにとってニヤは正真正銘の邪魔モノでしかなく、男は逃げ場のないサンドバッグに向かって、淡々と暴力を加えていく。

 ──ガッ! ゴッ!

「うぐぼぉッ!? いぎぃがァッ!!」

 吊らされ縛られ踏ん張りの利かない身体は、衝撃を逃がすことすら許されず、すべての力を痛みとして変換してしまう。

 ──ドゴッ! グリッ!! グガッ!!

「お゛う゛ぐぅ……ぐぶ、ふッ!!ま、ま゛っで── お゛ぅ゛……ゲぇえぇ、ぐえッッ!?」

 横隔膜を殴られ、痙攣したニヤの肺は、もう得意の言葉を紡ぎ出すことすらままならない。

 ただ胃液混じりの黄色く濁った涎だけを、だらだらと床へと垂れ流すだけだった。

「ひゅ、ごひゅ……ひゅ………!」

 十数発殴られた頃には、飄々とした笑みは引き剥がされ、ヒューヒューと喉から空気を漏らすだけの、ゆらゆら揺れる肉人形だけが残される。

 紺スーツの男はそれを冷たく見下ろしながら、なおも痛めつけようと拳を振り上げるが、その腕はホール最奥から響いた声に止められた。

「まぁまぁ、そこまでにしとけ。可哀そうじゃないか」

 濁った瞳が、かすかに上向く。

 いつまで続くかもわからないこの暴力が、止んでくれるのかと期待する。

 だが、当然ながら犯罪組織の長たる男に、理知的な話し合いなど期待できるはずもなく。

「この嬢ちゃんはまだ、自分の立場というものを理解していないみたいじゃないか。お前らでたっぷりと──わからせてやれ」

 ニヤァと額の傷跡を歪ませながら、彼はゆっくり煙を吐いた。

「ヒュー! そうこなくっちゃ(笑)」

「さっすが、親父は太っ腹っすね! 俺のちんぽもビンビンで限界だったっすわww」

 ガラの悪い大勢の男たちが、ニヤの周りへと集まってくる。それぞれの股間はズボンを押し広げるように丸く膨らんでおり、雄の欲望を露わにしていた。

「────ひっ」

 ニヤはもう、見せかけの笑顔を浮かべることすらできずに。

 ただ恐怖に、顔を引き攣らせた。

 ♢

「んぐッ! ぐぷぅッ! ぐ、ぁぐぷぷぅッッ!!」

 パンパンという水音が、広い居間に反響する。

 豚の鳴き声のようなくぐもった声が、ニヤの潰れた喉から捻りだされた。

「おー、やぁっっと従順になってきたな」

「オラオラ、しっかり奉仕しろよこのバカ雌(笑)」

 ニヤの拘束は既に解かれ、半端に浮き上がっていた身体は地面に降りている。だがその身体は新たな重荷──幾重にも折り重なった男たちの肉体によって、無残に抑えつけられていた。

「じゅ、じゅぷぶぅッ!! じゅ、んぐじゅ、ぷぅ!! ぐぅ、う……!!」

 鼻フックと開口器によって開かれた口元に、髪を掴んだ一本挿しのイラマチオ。未開発のアナルは拡張され、桁外れの巨根をねじ込まれる。

 唯一自由な掌も、余った男たちのイチモツを押し付けられ、シコシコと奉仕を強制されるダブル手コキ。少しでもサボったら嬲られる状況で、恐怖に塗れた彼女の奉仕はどこまでも、優しく丁寧な手つきだった。

「んぐぷぁぐぷ──ぐぷぷぷじゅぷッ!! じゅ、んぐじゅッ、ぐじゅ~~~ッッ!!」

(いつまで……こ、こんな………)

 不快な肛門の異物感に、脳が壊れるほどの屈辱感。

 未だズキズキと痛む頭部の傷跡も相まって、上下からちんぽを挿入されるその度に、ニヤの意識は薄らいでいく。

 ──パンッ! パンッ! パンッ!

「んぁ……ぐ、ぷ……じゅぷ、んぐぷ、ぐぷ………!」

 酸素不足で青ざめていく身体。

 ごりごりと腸壁を殴られ噴き出す冷や汗。

(だ、だめ……もう何も、考えられな………)

 やがて彼女の意識はふっ、と、暗い闇の底へと堕ちて──、

 ──じゅっ……

「──ッ!? いぎゃぁぁあぁッッ!!」

 いく寸前に、男の一人が吸っていた煙草が、ニヤの白い尻に押し付けられた。

「おい、テメェ。何勝手に落ちようとしてんだよ」

「こりゃお仕置きだなw 絶対に途中で意識失わないように徹底的に痛めつけてやんよww」

 ニヤの意識が一瞬消え、”愉しみ”が中断されかけたことで、男たちから一層の嗜虐心が沸き上がってくる。目の前のメスを嬲るため、地獄のような苦しみの連続を、ニヤの全身に振り下ろした。

「ほ~ら、雌の炙り一丁上がり~~~♪」

 ──じゅうぅう~~~!

「あぁぁぁ゛ああぁ゛ぁああ゛ヅイぃいい゛ぃいい゛ぃい゛い゛ぃ~~~~ッッッ!!!!」

 ライターで乳房と膣を炙られた。

 熱せられたクリトリスの表面は、無残に赤黒く発光していた。

「そら、そらそらッ!! ギャハハハ見ろよこの足! 手羽先みてぇ(笑)」

 ──ゴキ、ンッ! バキンッ!!

「うぎゃッ!! ぎゃぁあ゛ぁッッ!! いぎゃぁあ゛ぁあ゛ぁッッ!!!!」

 開かれた両脚がゴキリと音を鳴らした。

 紫色に腫れあがった瘤を、面白おかしく触れられるたび、雷撃のような痛みが走った。

「がはッ、ひ、ひひぃ……ッ!? い、ぎぃが、ぁ…………!!」

 どれだけ逃れたいと願っても、この地獄は終わらない。

 断続的に与えられる痛みは、ニヤの意識を絶え間なく覚醒させる。

「おっ、はっけ~~ん!! コイツ殴ったらアナルの締まり良くなるわ」

「マジでマジで? んじゃ、どんどんヤっちまおうぜ(笑)」

 仕上げと言わんばかりに、大量の拳がニヤの全身に降りかかっていく。床に敷かれた肉人形を、少しでも”おいしく”愉しむために、彼らは彼女を嬲り続けた。

 ──ドガッ! ガッ! バギィ!!

 ──ガ、ガンッ!! ぐじゅ……じィッッ!!

「だ、だずげ……やめ、ぎぃッ!? ゆるじ──ぃぎゃッ!! ゆるじでぐだざぁ゛ぎぃあぁぁッッ!?」

 そこに居たのは、いつも飄々と笑っていた天地ニヤなどではもはやなく。

 ただ理不尽に泣き喚くだけの、醜く、弱い、一人の女だった。

 ♢

 

 数日後。

 行方不明となっていた天地ニヤは、百鬼夜行裏路地のゴミ捨て場にて、ボロボロの状態で発見された。

 第一発見者は、近隣の屋台にアルバイトで務める下級生の少女。

 夜明け前、生ごみを捨てに路地裏へと足を運んだ彼女は、積み上げられた黒いビニール袋の谷間から、肛門と膣に何十本もの煙草を突き刺さされた人を発見して、悲鳴を上げる間もなく腰を抜かしたという。

 彼女は最初、それがかの”天地ニヤ”であることには気づけなかった。

 無理もない話だ。

 眼窩の周辺には痛々しい痣が浮かび上がり、うつろに半開きになった瞳には、もはやかつての知性の光は宿っていない。口元は乾いた血と汚れにまみれ、時折、ひゅーひゅーと出来損ないの呼吸だけが、微かに漏れ出ている。

 

 誇り高かったはずの彼女の姿は見る影もなく、先端が乱暴に欠けてしまった赤い片角のシルエットだけが、彼女がかつて天地ニヤであったことの、唯一の証だった。

 病院の白い廊下に、革靴の足音が響き渡る。

 報せを受けた先生は、ほとんど走るようにして、病室の扉に手を掛けようとした。

「ニヤ! だいじょ──」

「先生!」

 扉が、半ば開きかけたその瞬間。

 カホの細い手が、先生の腕を強く、強く掴んで引き戻した。

「今は……ご遠慮ください」

「カホ、だけど──」

「お願いします!」

 深々と頭を下げる副部長の姿。

 震える肩の向こうからは、病室の人間の呼吸の音が聞こえていた。

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 浅く、早く、苦しそうな声。

 先生の──男の声を聞きつけた彼女の脳は、刻まれたトラウマをフラッシュバックさせる。

『これケツ穴の中入れてみようぜ~~』

『それだったらもうライターごとでいいだろ。ほらおまんこちゃん? あ~~~ん(笑)』

「はぁ……、はぁ……、はぁ……、はぁ、あぁあぁ──ッ!?」

 悲鳴とも嗚咽ともつかない引き攣った絶叫。

 ベッドの軋む音とカホの涙ぐんだ声。

(…………たすけて)

 壊れたニヤは何も言えずに。

 ただ出来損ないの呼吸だけを繰り返していた。

Comments

ガノタ

これだけ顔ボコだと完全に元には戻らないと思うのですが、どうなんでしょうかね。 気になります。

saradaba-

最初は戻らない予定だったんですけど、公開停止になってしまったのでめちゃくちゃ表現をマイルドにしてしまいました……