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 麦畑の向こう側で、リナは手を振っていた。

 沈みかけの夕日に染まって、オレンジ色の髪が赤く揺れている。

「レオ! こっちこっち!!」

 気の強いリナから発せられる声は、いつも怒っているように聞こえる。

 それでもぼくの名前を呼ぶときだけは、ほんの少しの優しさが混じっていた。

 ぬかるんだ地面を思い切り蹴って追いつくと、リナは少し不機嫌そうな顔で、ぼくのことを覗き込んでいた。

「走らなくてもよかったのに」

「リナが呼んだんだろ」

「呼んだけど……転んだら危ないでしょ!」

 リナの視線が、ぼくの膝の擦り傷に落ちる。

 昨日、リナの前で転んでしまったやつだ。

 あのときの不格好な自分の姿を思い出して、頬が少し熱くなる。それを誤魔化すようにして、ぼくはリナの腕を取った。

「それより行こう。この前話してた珍しい鳥の巣、見つけたんだろ?」

「……うんっ!」

 小さな顔が、笑顔にはじける。

 朱色の瞳が、夕日を映して嬉しそうに細まった。

「行こうっ!!」

 小さな手と手を、ぎゅっと固く握りしめて。

 ぼくたちは駆けだしていた。

────────────────

────────────

────────

 鐘の音が、鳴っていた。

 昔の夢を見ていたようだった。

「…………」

 瞼を開き、石のベッドから身体を起こすと、背中の節々がいつも通り傷む。藁の一枚も敷かれていない粗末な寝床。これで眠るのに慣れることは、たぶん一生ないだろう。老人のように背中をさすりながら、二段ベッドの上段から僕は降りた。

 十数人という同室の男子たちが、廊下に出ていき列を作る。

 僕もそれに合流すると、他の部屋から出てきた子たちも併せて、部屋の前には長い行列が出来上がっていた。

「「…………」」

 誰も何も、喋らない。もちろん僕も口を開かない。

 十歳から十五歳前後の男子たちがこれだけの人数集まって物音ひとつしないというのは、ある種不気味な光景で。それだけで、ここがかつての母国とは違う異常な場所なのだと、そう突き付けられているようだった。

「は~い、おはようございます。今日も一日頑張ろうね~~」

 五分ほどそのまま待っていると、やがて制服の襟元を着崩した、長身で細身の男がやってくる。普段通りの軽薄な薄笑いを浮かべながら、男は順番に番号を読み上げていった。

「一番」

「はい!!」

「二番」

「はい!!」

 一人ひとり。

 ”名前”が告げられていくたびに、大きな返事が廊下に響く。

「二十八番」

「はい!!」

「四十一番」

「はい!!」

 同じ声量、同じ声音。

 全く同じリズムで淡々と響くそれは、どこか家畜小屋で鳴いていた豚の鳴き声にも似ていて。個人の個性を奪われ、帝国に従う家畜だけが息をすることを許される──そんな絶対のルールを、表しているようだった。

「六十三番」

「はい!!」

 僕の名前が呼ばれた。

 僕もまた大きく声を出した。

「はい皆さんよくできました~。それではさん、ハイ────」

 制服を着た男が、指揮を執るように両手を上げる。

 それを合図にして、僕たちは一斉に叫びだした。

 

 

「「「僕たちフローリア人は、馬鹿で愚図のくせに帝国様に歯向かった、最低最悪のゴミクズ民族です!! 今日も一日、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!! 偉大なるグランツ帝国様に栄光あれ!! グランツ帝国万歳!! グランツ帝国万歳!!」」」

♢

 僕たちの母国、フローリア聖教国。

 それがグランツ帝国フローリア領と名前を変えてから、長い月日が経っていた。

 大人たちはどこかに消えてしまった。

 ソフィアねぇとイリアねぇは、男の人たちに連れていかれた。

 そうして残された僕らは、ここ──”帝国立第七児童平和学校”に、その身を置いていた。

「はっ、はぁ……、はぁっ………」

 大きな大きな、石を運ぶ。

 両手いっぱいで抱えても持ちきれない、硬くて重い石の塊を、何の道具も使わずに持ち運ぶ。

「手を休めるな! さっさと運べサルども!!」

 けたたましい怒号が鼓膜を叩いた。

 劣等民族であるフローリアの思想を洗い流し、命を救済して頂いた帝国様への作法と正しい歴史を学ぶため、僕らは今日も監督官の下、過酷な”矯正活動”に励んでいる。

「ふ、う……ぅぐっ!!」

 僕の前を歩いていた男の子がふらつき、そのまま地面に倒れこんだ。

 運んでいた両手いっぱいの石が、ばらばらと音を立てて転がっていく。

「テメェ何やってんだ!? フローリアのサルは石も運べねぇのか!!」

「すっ、すみま、ぜ──! ゆる、じで……っざい──!!」

 極度の疲労と栄養失調で、小枝のようにやせ細っている彼の身体を、帝国兵は手に持った鞭で容赦なく叩いていった。ベチィン、バチィンと、僅かな肉を削り取っていく小気味いい音が、突き抜けるような空に響いていく。

「チッ、クソザルが……なんで俺がわざわざオスの方を担当しなきゃいけねぇんだ、よッ!! あぁッ!?」

「ぐぎッ、ぎぃ──ッ!!」

 亀のように地面に蹲った男の子が、涙を流して理不尽な罰を受け入れる。

 僕はそれを見下ろしながら、何も言わずに横を通り過ぎていった。

「はぁっ……は、はぁっ……!」

 爪が割れる。血が滲み出る。

 容赦なく照り付ける直射日光に、脳みそがどろどろに溶けていく。

 この作業に意味はあるのか。この苦行に終わりはあるのか。

 そんな無駄なことは一切考えない。

 僕はただ、石を運ぶためだけに生まれた一つの機械として、ひたすらに歩き続けた。

「あっ、んぁ、 あぁ……ッ♡」

 ふと、この地獄には場違いなほど甘ったるい声が、僕の耳に届いた。

 地を這う蟻のような行列は、どうやら普段僕たちが行くことのできない、女子校舎の近くを通り始めたらしい。

「おら、おらッ! ハハ、相変わらず体温あったけ~~w」

「ギャハハハ! うまくなってきたじゃねぇかオメェ!! ちゃんと玉までしっかり舐めろよ(笑)」

 数十人という、帝国兵たち。

 制服を脱ぎ日の下で下半身をさらけ出した男たちが、愉しそうに嗤っている。僕らとは比べ物にならない鍛え抜かれた体躯の下で、小柄な身体が蠢いていた。

 

「んぁ、あぐッ、んぐぁはぁ……ッ♡」

「んじゅぷ……れろ、んれろ……え、えへへ……どうですかぁ、気持ちいいですかぁ……? じゅるろぉ~~っ♡」

 年頃というには少し若い、僕らと同じ年代の少女たちが、帝国兵にその身を捧げていた。

 ──パンッ、パンッ、パンッ♡

 ──じゅる♡ れろれろ♡ じゅぞぉ~~っ♡

 淫らな水音を打ち鳴らしながら、両手を男の背に回し、自らを穿つイチモツを受け入れる。えへえへと卑屈な笑みを浮かべながら、亀頭に溜まった白い恥垢を音を立てて啜り、玉袋を舌先で転がしていく。

 

「このまんこマジでいいわ~~w 多少乱暴に使い込んでも元がキツイからそこまで緩くならないしw」

「マジそれな(笑) ま、毎日毎日使ってるから、ちょっと黒くなってきた気がするけど(笑)」

「あ、んぁッ……い、言わないでくだ、さいっ♡」

「い、いっぱいおちんぽ舐めますからぁ……み、見捨てないでぇ……♡」

 どれだけ屈辱的な言葉を投げかけられても、彼女たちは卑屈に笑っている。

 僕らとは違うカリキュラムで”教育”され、作り替えられた唇は、男を悦ばせるためだけの言葉をひたすらに吐いていた。

 嗤う男。笑う女子。

 唯一それに参加していない僕らだけが俯いたまま、ピン!と股間のテントを膨らませる。

「お~い”17号”ちゃんも♪ こっちおいで~~~(笑)」

「……っ」

 だが、男の口から呼ばれたその”名前”が耳に届いた瞬間。

 僕の顔は勝手に上げられていた。

「は、はい……、 ”オナホ豚17号”、ただ今参上しまし、た……」

 視線の先で揺れ動くのは、見覚えのあるオレンジ色の髪。

 

 黒ずんだ媚肉をぐにぃと広げて、陰毛が生えかけの股を前後に揺らす。

 台詞をなぞる口元はガクガクと震え、声音はあらぬ方向へ滑稽に跳ねる。

「え、えへへ……! きょ、今日も私のキツキツ未熟まんこ、帝国様の立派なおちんぽで、いっぱいズポズポしてくだしゃいっ!!」

 ”オナホ豚17号”。

 ”リナ”という名前だったはずの彼女は、出来損ないの喜色と恐怖とをいっぱいに宿した笑顔で、男たちの前に現れていた。

「ギャハハハ! 17号ちゃんも変わったね~~(笑)」

「最初の頃はバカみたいに泣き喚いてたくせになw 今じゃ立派な変態女だわw」

 彼らの言う通り、リナの見た目は以前とは変わり果てていた。

 僕ら男子とは違い十分な食事を与えられ、子供から大人へと成長する過程の胸と尻は、もっちりと肉厚な弾力を帯びており。幾度となく弄られ抓られた乳首と陰核は、小さめのウインナーのように膨らんでいる。

 美しいオレンジ色の髪には、よく見れば痛々しい白髪が数本混じり、快活だった笑顔の上には、卑屈な媚笑いが張り付いていた。

 だがしかし、何より違っていたのはそう、白くきめ細やかな肌に刻まれた悍ましい”意匠”。

 

「は、はい…っ、光栄ですっ! これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしますっ!!」

 リナの身体には、腹や尻、そして顔に至るまで、元の白い肌を食い破るかのような、大量のタトゥーがびっしり刻み込まれていた。

 大人のいない孤児院では、ソフィアねぇからたくさんのことを教わった。

 数の数え方、動物や花の名前、文字の読み書き──。

 勉強が嫌いだった僕は、ソフィアねぇに質問をしたことがある。

『ねぇ、どうして勉強しなくちゃならないの? 外で走ってる方が楽しいじゃん!』

 ソフィアねぇはいつものように優しく笑うと、穏やかな声音で僕に言った。

『きっと、レオがもう少し大人になったら、わかる時が来るわよ』

「ふぅ、う……ぐ、う゛…………」

 くねくねと身体をよじるリナの動きに合わせて、刻み込まれた文字が肌を波打つ。

 ”豚”

 ”ぼっとん便所”

 ”ザーメン狂いのメス猿”

 ”帝国ちんぽ ☆ 命”

 ”~フローリア生まれのチンカス娘です♡ 新鮮なチンカスぱくぱく食べます(笑)~”

「ぶははっ! それにしても相変わらずひっでぇタトゥー(笑)」

「暇つぶしに毎日彫ってたけど、そろそろクドくなってきたな……いっそのこと全部真っ黒に塗りつぶすかぁw?」

 ……あぁ確かに、勉強は大事だったのだろう。

 ソフィアねぇが何も教えてくれなかったら、僕は大切なリナの身体に刻まれたこの文字さえ、読めることはなかったのだから。

 

「んひぃ──っ♡♡!!」

 唐突に、帝国兵の一人がリナのまんこに指を挿れた。

 全身の文字が見やすいよう胸を張りピンと伸ばしていた彼女の背骨が、瞬く間に情けなく丸まっていく。

「おまんこビチョ濡れw どんだけ期待してたんだよこのビッチw」

「ぁ、ふぁ……♡」

 従順に笑いながらも確かに恐怖と悲壮感が混じりあっていた彼女の声音が、偽りようのない快感に塗りつぶされていく。だらりとだらしなく目尻を垂らし、大量の愛液を分泌していた。

「オラ、ちんぽ入れてやるからおねだりしろやメス猿w」

 バチィン、と小ぶりな尻を叩き、帝国兵が命令する。

 リナは”あひぃ!?”と声を漏らし、ヨロヨロと地面に倒れこみながら両脚をぱっくりと抱え開くと──、

「てっ、低俗なフローリア産中古まんこにっ! 高貴なおちんぽ様ぶち込んでくだしゃいっ♡♡!!」

 涙と涎を目いっぱい垂れ流しながら。

 すべてを消し去るように、そう叫んだ。

「…………」

 僕はそれ以上見ていられなかった。

 すべてから目を背けるように、再び石を運び始める。

「あ、ぅぐ、あっ♡ ありがとうございましゅ♡ おちんぽ様、ありがとうございましゅっ♡♡!!」

 後ろでは、パンパンという水音と共に、知らない女の声が、響き渡っていた。

 ♢

 日が沈み、矯正活動が終わると、僕は一人薄暗い個室にいた。

 ベッドで四つん這いになった僕の真後ろで、立派な制服を着た上官が腰を振っている。

「ふッ、ふッ、ふッ──!!」

 獣のような息を鼻から噴き出しながら、ローション塗れの”穴”にイチモツを挿し込む大男。数か月前、唐突に声を掛けられ部屋に呼び出されてから、毎日続いている僕の日常だった。

「…ぅ、ぅぐ……ぁ……」

 僕よりも何倍も大きくて逞しい男が、僕の身体に覆い被さる。

 いつまで経っても慣れぬその苦痛に喘ぎながら、僕はまたリナのことを思い出していた。

『いや、いやあぁぁあ゛ぁあ゛!!!』

『レオ助け……う゛ぅ、ぐっ゛───!? あ゛ぁ、ぐう゛ぅっ!!』

 ソフィアねぇがたくさんの帝国兵を引き連れてきた孤児院。

 見知らぬ男たちに初めて犯され、泣き叫んだ彼女の姿。

『は、はい……、 ”オナホ豚17号”、ただ今参上しまし、た……』

『あ、ぅぐ、あっ♡ ありがとうございましゅ♡ おちんぽ様、ありがとうございましゅっ♡♡!!』

 徹底的に改造され、変わり果てた無残な身体。

 快楽に溺れ、ひたすらに媚び、哂い続けた彼女の姿。 

「ぐぅ……ぐっ、…ぁぐ…………」

 どちらが本当の彼女なのだろう。

 どうすれば僕は彼女のようになれるのだろう。

「ふッ、ふッ──チッ、流石に毎晩使ってるからケツ穴緩くなってきたな……こいつも替え時かぁ?」

 そんなことを思いながら、僕はただこの時間が過ぎるのを待っていた。

 ようやく寝室に戻った時、同室の子たちは既に寝静まっていた。

 明日も矯正活動はやってくる。いつ帰ってくるかもわからぬ僕を待つ暇などないのだろう。

 十数人いる男の子たちは皆何かを祈るように、瞼を力強く瞑っていた。

「…………」

 苦痛しか存在しない夜の”仕事”だけど、一つだけ感謝していることがある。

 遅くに帰ってくるおかげで、これから僕がすることを、誰にも見られずに済むことだ。

「ふ、…ん、ふぅ………」

 僕は硬い石のベッドにうつ伏せになり、下腹部を強く密着させた。

 腰を起点として身体を前後に、半端に勃起したイチモツを面に押し付ける。

 ──ズリっ……ズリっ……ズリっ……

「ふぅ……んぐ、…うっ……」

 足の付け根が熱を帯び、圧迫された尿道はピクピク震える。

 呼吸は荒く、甘くなり、凄まじい刺激につま先はピン、と伸びていった。

 ──けれど。

 快感が背筋をなぞるそのたびに、僕の思考は自己嫌悪に沈んでいった。

 

「………くそ」

 これをやるときは、昔の”ぼく”でいたいのに。

 思い浮かべるのは、ぼくの隣にいてくれた、可愛らしいリナの姿にしたいのに。

「くそ………くそ、くそっ」

 汚れた脳を埋め尽くすのは。

 リナが裸で腰を振る姿。

 帝国兵に向かってタトゥー塗れの尻を揺らす姿。

 まんこを広げて媚笑う姿。

 そして────。

『──んむ、じゅるぽぽッ♡ じゅぽッ♡ じゅぞぞぞぞぉ♡ うひょーーーーーー♡ ショタちんぽおいちいぃいぃーーーーーーっっっ♡♡♡』

「──っ、くそっ、くそくそ!! なんでっっ!!」

 ソフィアねぇが、僕のちんぽを咥えてしゃぶった、あの瞬間だった。

『じゅぷッ♡ じゅぷぷッ♡ たまんねっ♡ たまんねっ♡ 子供おちんぽ舐めんのたまんねぇっっっ♡♡♡』

 いつも優しかったソフィアねぇの、見たこともないような間抜けな顔。

 鼻の穴をふがふが大きく鳴らして、下から僕を見上げる媚びるようなとろけた笑顔。

 

「はぁ、はぁッ……くそ、クソぉッ!!」

 あったかい口の中。

 くすぐったい舌の動き。

 ぬるぬるトロトロの涎の感触。

 塗りつぶされる。

 塗りつぶされる。

 塗りつぶされる。

 感情が塗りつぶされる。

 思い出が塗りつぶされる。

 快感に塗りつぶされる。

 リナとの思い出は、大好きなリナの裸は──たった一回のソフィアねぇのフェラによって、跡形もなく消えていった。

 

「うッ──!」

 ──どぴゅ……

 押しつぶされた性器が、出来損ないの射精をする。

 増幅された自己嫌悪が、快感の名残を上回っていく。

 

「 …………うぅ、うぅ……」

 ソフィアねぇは僕たちに、たくさんのことを教えてくれた。

 数の数え方、動物や花の名前、文字の読み書き──。

『きっと、レオがもう少し大人になったら、わかる時が来るわよ』

 僕はまだ大人じゃないけれど、それでも、数の数え方や動物や花の名前といったことが、これから先の人生で何の役にも立たないことはわかる。いくら頑張っても頑張っても、僕らはただ奴隷以下の家畜として、遊ばれ嬲られ殺されるだけ。

 僕は──僕はただ────。

「うぅ、……うっ、…ぐぅ…………」

 このどうしようもない感情の消し方を。

 あの快感をもう一度味わう方法を、教えて欲しかった。

*──────────────────*

 教会の脇の花畑を、ソフィア様と散歩したとき。

 ふと気になって、訊いたことがある。

 どうしてそこまで、人に優しくできるのですか、と。

 ソフィア様は少し困ったように首を傾けて──それから、静かに笑った。

『それが私の使命だから。身寄りのなかった私を、この国は──先代の聖女様は、受け入れてくれた。だから私は、今までみんなからもらった分の優しさを、返しているだけなの』

 心が、震えた。

 こんなに強い人がいるのかと、そう思った。

 ”聖女”としての適性が自分にあるとわかったとき、私の心を包んだのは、驚愕と、喜びと──ほんの僅かな恐怖だった。

 聖女としての運命を選べば、私は二十歳を迎える前に命が尽きる。

 それがどれだけ崇高なことかわかっていても、怖いという感情を消すことはできなかった。

 まだ見たいものがある。まだ知りたいことがある。

 死にたくないと、そう思ってしまう弱い自分が聖女の器に相応しくないように思えて、それがなによりも苦しかった。

 ──けれど。

『どうしたの? イリア』

 ソフィア様が、私の顔を覗き込んでいる。

 陽の光に煌めく長い髪。どこまでも澄んだ青の瞳。花びらのように鮮やかな唇。

 美しい──何よりも美しい、心の強さ。

『私……ソフィア様みたいになりたいです』

 気がついたら、私はそう口にしていた。

 ソフィア様は一瞬きょとんと目を丸くして、それからにこりと、私の覚悟に寄り添うかのように笑ってくれた。

 私は弱い。

 弱い私が聖女になることは、本来許されないことなのかもしれない。

 だけど、それでも私は、次代の担い手として。

 この国を守る希望として。

『イリア。私はいつでも、あなたの味方よ』

 

 ソフィア様の次に立派な"聖女”になろうと、そう決めた。

────────────────

────────────

────────

「おはようございます!!」

 まだ朝日が昇りきっていない、肌寒い時間帯。

 私の一日は、全力の絶叫全裸挨拶運動から始まる。

「おはようございます!! おはようございます!!」

 国家繁栄のための訓練に向かう帝国兵様たちへ、裸身を晒したまま腰を九十度に折ってのご挨拶。喉の奥が血の味でひりつくのも構わずに、一人ひとりの目を見て礼をする。

「便所国家フローリア二代目”性女”! プリケツ芸人のイリアです!! 今日も偉大なる帝国様に精一杯のご奉仕とお下品芸を披露させていただきますので、どうかよろしくお願いいたします!!」

 ──ぱかぁ♡

 性女としての基本姿勢、ガニ股脇見せチン媚ポーズ。

 既に何百回と披露したこの恥ずかしい格好で、私は彼らを出迎えた。

「ふぁ~ぁ、イリアちゃんおはよ~~」

「今日もぷりぷりおケツで可愛いね~~(笑)」

「あひ─っ!?」

 ──もにゅうぅっ♡

 下卑た笑みと共に彼らの腕が、突き出された尻肉に添えられた。鍛えられた大きな掌は、私の小ぶりな尻たぶを覆いつくして、執拗に乱暴に揉みしだく。

 もう何百人もの男の人と関りを持った私だけれど、この直接肌に触れられる感覚には、いつまで経っても慣れることはない。ぞくぞくとした悪寒が背筋を走り、取り繕った笑顔がぴくぴく引き攣る。

 ──もにゅっ、もにゅっ♡ もにゅうぅ~~~っっん♡

「ひっ、ぃ……」

 心臓が不規則にバクバク響き、開かれた両脚は無残に揺れる。

 だけど私は、”性女”として。

 この堕ちた、既に国とも言えぬ何かの代表として、相応しい態度で彼らに応える他なかった。

 ──くっぱぁ♡

「か、か、カッコイ~~いイケメンお尻もみ、ありがとうございまぁ~~す♡♡!! 帝国兵様の男らしい揉みほぐしに、私のおまんこもぐじゅぐじゅに喜んでおりますっ♡♡!!」

 後頭部にあった両手をまん肉に添え、中身を開いて誠意をアピール。

「おぉ~~ほんとだw めちゃくちゃ濡れてるね~~(笑)」

 調教の末条件反射的に愛液を垂れ流すおまんこを献上すると、帝国兵様の一人は指を挿し込み、そのまま無造作に私の中身をかき混ぜた。

 ──ぐちぐちぐちぐちぃ♡

「んひっ!? ひぃ、いいぃ~~~~~~っ゛っ゛っ゛っ゛ん!!!♡♡♡」  

 ──ぷっしゃぁ~~~~っっ!!♡♡

 何の遠慮もない強引な手マンに、まんこはあっさりとイキ果てる。

 地面に倒れこんだ私は陸に上がった魚のように、ぴちぴち身体を跳ねさせた。

「それじゃねイリアちゃ~~ん」

「今日もお仕事頑張んなよ~~(笑)」

「あひ、ひ……ひ…………♡」

 私は涎と愛液を垂れ流しながら、今日もまた、この地獄が始まることを──ゆっくりと覚悟した。

 ♢

 ”性女”としての仕事は、多岐にわたる。

 今日の私の仕事は、支配後各地に新設された”児童平和学校”での、特別講師としての授業だった。

「いいですか皆さん!? 私たち下等な女に付いてる、この間抜けな穴っぽこをよく見てください!!」

 教卓の上に乗った私は、両脚をM字に大きく開いて、中のおまんこを生徒に見せる。使い込まれたそこはラビアがはみ出て、薄い陰毛はハート型に整えられていた。

「こんなものが付いている私たち女が、立派なちんぽを持っている帝国男性様に敵うわけがないでしょう!? 低俗な私たちフローリアの女は、おっぱいもお尻もおまんこも、すべて帝国様に献上しなければいけないのです!!」

 私はヒステリックに喚き散らす。

 まんこを大きく広げながら、同胞を徹底的に貶し続ける。

 そんな私のことを、生徒の少女たちは──

「「「…………」」」

 何の感情も浮かんでいない瞳で、ただじっと見つめていた。

 性女として私が生まれ変わったとき、最初に降りかかった地獄は、ソフィア様からの厳しい”教育”だった。

『なんどっ……! 何度っ、同じことを言わせればわかるのイリア!?』

 ベチィン、と私の頬を叩いて、私の知らない形相で怒鳴りつけるソフィア様。

 興奮しているのかその声は時折詰まって、口の端から大量の唾を飛ばしていた。

『私たちは下! 帝国様が上! 私たちのおっぱいもお尻もおまんこもクリトリスも、全部全部グランツ帝国様のものなの!! わかったらメソメソ泣いてないで、さっさと私と一緒にチン媚腰振りダンスを踊りなさい!!』

 帝国兵に胸を触られ泣き喚いていた私を、ソフィア様はただひたすらに叱りつけた。顔全体を真っ赤に染め、はぁはぁと荒い息を吐きながら、ふと帝国兵の方に向き直ると、今度は一転してだらしのない笑みを浮かべ始める。

『ほっ!!♡ ほっ!!♡ ほっ!!♡ みなさんすいませぇん♡ 私の後輩芸人がご迷惑をおかけいたしましたぁ~~♡ せめてものお詫びとして、この帝国ちんぽいっぱい咥えた売国ビッチおまんこっ♡ 精一杯かわいがってくださぁ~~いん♡♡』

 ピンと勃起した乳首を摘まみ上げ、突き出した股間から愛液を振り乱し、見慣れたガニ股ポーズでかくかくと腰を前後に振る。乳頭をぐにぐに押しつぶし、浅ましく子種を懇願するその様は、まさしく彼女の言う売国ビッチそのもの。

『ほっ!!♡ ほっ!!♡ ほォっ!!♡ ほらほらイリアもしっかり腰振って♡ そんなんじゃおちんぽ様入れてもらえないわよっ!!♡』

 振り返った彼女の顔は、かつて私が憧れ、誰よりも美しいと思っていたあのソフィア様とは別人のように──醜く、無様だった。

 今思えば、きっとあれは、ソフィア様なりの優しさだったんじゃないだろうか。

 帝国に支配され、すべての権利と尊厳を奪われた私たちが生きていくには、あぁして惨めに媚び続けるしかなかった。

 ソフィア様はきっと、これからこの地獄で生きていく私に、上手な地獄の生き方を教えてくれていたのだ。

「ふぅ……ぐ、ぅ………」

「ぅぐ、あ゛……あぁ……ぅ……」

 子供たちが、泣いていた。

 男の前で裸を晒し、惨めに腰を振り乱して、冷たい涙を流していた。

 それでも私は、この子たちのために──これから先この残酷な世界で生き抜ていく子供たちのために。

「こらそこ! 腰振りサボらない!! あなたも!! そんなんじゃザーメン出してもらえないでしょ!? もっと金玉様をぐつぐつ煮えさせるように──ほッ!! ほッ!!ほぉッ!!♡ 帝国様のイケメンデカチンっ、フローリアの短小ちんぽ用に作られたキツキツ劣等まんこに、いっぱいいっぱい突っ込んでくだしゃぁ~~いっっ♡ ほッ!!♡ ほッ!!♡ ほォ~~んッ♡♡」

 

 精一杯の生き恥の晒し方を。

 ソフィア様と同じように、教えるしかなかった。

 

 日中の業務が終われば、次に訪れるのは夜の接待。

 プリケツ芸人の本業である、女としての価値を貶めるお下品芸だ。

「それでは皆さん行きますよ~~♡ ぷりんっ、ぷりんっ、ぷり~~~んっっ♡」

「「「ぎゃはははははははは!!!」」」

 帝国上層部専用の宴会場の、芸を披露するためのお立ち台。

 その上で私は膝に手をつき、突き出したお尻をぷりぷり小刻みに振っていた。

「さぁ~~て、正解はなんでしょうか~~~?」

 究極までに甘ったるい、男に媚びた猫撫で声を出しながら、私はお尻越しに観客席を振り返った。

「ん~~、まだちょっとわからんな~~w」

「もう一回やってみてくれよもう一回! 今度はケツ穴の皺の本数までしっかり見極めてやるから(笑)」

「も、もうっ♡ お尻の穴じゃなくて動きを見てくださいっ♡ それじゃあせーーーのっ♡ ──ぷりぷりっ♡ ぷりり~~~~っ♡」

 そう言って私はもう一度お尻を動かす。

 足を開いて大きく縦に。丸みをなぞるようにゆっくりと。

「ふっ……ふ、ぅ……」

 とてつもない恥辱に肌は赤く染まり、脇には変な汗が滲みだしていた。

 先ほど観客の一人が、丸見えの尻穴に注目したのは無理もないだろう。私の右尻たぶには『←プリケツアナルはこちらです(笑)』といったタトゥーが入っていて、調教によって一回り大きくなった周囲の皺は、ひくひく恥ずかしそうに震えているのだから。

「ぶははっ! ケツ穴めっちゃパクパクしてんじゃん!!」

「っ、えへへぇ♡ えいっ♡ え~~いっ♡」

 観客の笑いが響く中、それでも私は尻を振る。

 私が自分で提案した──宴会披露用の”尻文字当てゲーム”を終わらせるために、キビキビとキレよく尻文字を描いていった。

「──はいっ、 できましたぁ♡ どうですかぁ?」

「ごめんなぁw 動きが速すぎてまだわからなかったわ~~w」

「俺もまだだなぁ──あ、そうだ(笑)」

 わざとらしくいつまでも、正解を口に出さない観客たち。

 すると、そのうちの一人がふと思いついたように──私のお尻を、強く掴んだ。

 

 ──ぐにぃ♡

「──ほォっ!?♡」

「こうやって動きを感じ取るからさ、もう一回動いてみてよ(笑)」

 ──ぐにぐに♡

 ──むにむに♡

 私の尻肉の感触を愉しみながら、下卑た笑顔を浮かべる男。

 いつのまにかひとり、またひとりと手を伸ばし、私の臀部は多くの掌によって覆われる。

 

「は、はぁ~~いっ♡ それではせーーのっ♡」

 今度こそしっかり伝わるように。

 私はゆっくりゆっくりと軌跡を作った。

 お

 ち

 ん

 ぽ

 ♡

「わかった! 『おちんぽ♡』だろこれ!!」

「っ! 正解正解大正解ですぅ~~~~♡♡」

 ようやく待ち望んでいた正解に、私はペチンペチン♡と自ら尻を叩いて拍手する。観客たちもゲラゲラと、嘲るように私の尻を叩いていった。

 そうして私は尻たぶを開き、ぐにぃ♡とアナルとまんこを衆目に晒すと──、

「それでは正解者には豪華景品! 正解のおちんぽ♡を、私のふわトロチン媚オナホールで好き勝手にオナニーする権利を贈呈でぇす♡」

 えへへ♡と情けなく笑いながら、そう言った。

 ♢

 深夜。

 数時間にわたって犯され続け、まんこも口まんこもアナルも精液塗れになった私は、一人シャワーを浴びてから寝床に戻った。

 上層部の接待に”使われる”私には、健康な身体と実用的な肢体を保つために、奴隷としては破格の自室が用意されている。

 天蓋付きの、皮肉のように豪華なベッド。

 私はそこで毎晩裸のまま、胎児のように背を丸めて寝転がる。

「──明日は、どうしよう………」

 ふと、孤独な闇の中で呟いた。

 思考するのは明日の接待──観客を愉しませるための、新しい宴会芸のこと。

「今日はお尻を使った芸だったから、やっぱり次はおっぱいかな………ソフィア様が前やってた、『おっぱいぷるんぷるん扇風機体操』を、私なりにアレンジして………いやでも、私はソフィア様みたいにおっぱい大きくないし………」

 飽きられないよう、捨てられないよう、私は必死になって考える。

 未来のことなんて、想像しない。

 私は何の希望もない明日を生き抜くために──うまく恥をかく方法を、考え続けた。

「そうだ、明日のお相手は確か上官のお子さんだったはず………だったら私の乳首も相当長くなってきたし、この乳首とクリトリスで輪投げゲームを………」

 ふと、瞼が温かくなった気がした。

 なんでかはわからない。

 心臓が締め付けられた気がする。

 その理由に思い至る前に、私は眠りについていた。 

 

*──────────────────*

 昔から、子どものことが好きだった。

 孤児院で暮らしていた頃から、私の周りには大勢の子供たちがいて──気が付けば、姉のようにたくさんの小さな手を引いて歩くことが、私の日常になっていた。

「待て~! 待て待て~~!!」

「へへ、こっちだよ~~だ!!」

 何の穢れもない、無邪気な笑顔。

 触れるだけで心まで温かくなるような、高い体温。

 この世に生まれ落ちたばかりの小さな命が、何のしがらみもなく走り回っている。その姿を見ているだけで、胸の奥がじんわりと満たされていく。

 

 そんな私が、いつか自分の子を抱いてみたいと思うのは、至極当然のことだった。

(……まぁ、無理な話だけれど)

 無意識のうちに浮かんだ夢物語に、私は思わず自嘲する。

 聖女としての運命に、不満があるわけではない。

 大切なこの国の、大切なみんなを守れるこの使命を、私は誇りに思っている。

 ──だけど。

「あ、ママ!」

 広場の向こうで、男の子が駆け出していた。

 転びそうになりながらも走っていく小さな身体を、しゃがみ込んだ母親が両腕で受け止める。

 抱き合い、頬ずりをして、幸せそうに笑っている。

 世界に何の疑いも持っていない、まっさらな笑顔で。

 その姿を見て、私は──、

(────いいな)

 ただ素直に、そう思った。

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────────────

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 帝国繁華街に建てられた、奴隷娼館の地下ステージ。

 けばけばしいスポットライトに照らされたその下で、私は獣のような唸り声を上げていた。

「ふんぎいぃ!! ぎい゛ぃい゛い゛ぃい゛ぃ~~~~~~~~~ッッッッッ!!!!!!」

 八の字形に眉が歪み、顔全体はリンゴのように真っ赤に染め上がっている。鼻の穴がぱくぱくと豚のように広がり、歯を食いしばるたびに顎が震えた。

 唇の下のオトガイにはくしゃくしゃと干した果実のような皺が寄っていて、イキむたびに私の首筋には、みっともない青筋が浮いていく。

「ふッ、ふッ、ふッ、ふぐう゛ぅッ!? んぐぅう゛ぅ、ぐぅ~~~~~ッッッ!!!」

 身に着けているのは悪意を持って改造された、かつての聖女としての聖衣。

 服としての機能を果たしていない、おっぱいもお尻も丸出しのその格好で、観客によく見えるようM字に固定された股間からは、私の──産みかけの赤ちゃんの頭頂部が、はみ出していた。

「オイ! テメェにいくら賭けたと思ってんだ!? さっさと産めよこのブス!!」

「何十本もちんぽ咥えて産道ユルユルになってんだから、今更ガキ一人ひねり出すぐらい楽勝だろぉ? 負けたら処刑なんだから気合い入れてイキめよ~~(笑)」

 嗤い、怒り、嘲りながら、”私たち”に野次を飛ばす観客たち。

 反応する余裕などない私は彼らのその叫びに、──ぶぴっ♡ ぶぴぴっ♡と、マヌケすぎるまん屁で返事をした。

 私の──フローリアの聖女の結界が破られてから、五年。

 グランツ帝国は、さらなる発展と拡大を遂げていた。

 圧倒的な軍事力と最高峰の科学力を併せ持つ帝国に、抵抗できる勢力はもはや存在せず、数多くの国家が侵略され、植民地としてその名を変えた。

 広がっていく領土。増え続ける人口。

 そんな中、奴隷としての日々に衰弱しきった私たちフローリア人の待遇は、ただただ堕ちていくばかりだった。

「すいませぇん、ソフィアさぁん。あなたの処分が決まりましたぁ」

 ある日。

 いつものように主人であるエルザ様の前で、朝の”おまんこくぱぁ黒ずみチェック運動”の準備をしていた私に対し、彼女はさらりと言い放った。

「──………へぇ?」

 思いもよらない言葉に、私の身体はピシリと固まる。

 全裸のガニ股おまんこくぱぁの姿勢で、へぇ?と唇を曲げた呆け顔を晒す私の姿は、なんとも滑稽なことだったろう。

 けれどエルザ様はそんな私を見てくすりとも笑わず、それどころか呆れたようにため息をついて、ただ淡々と言い連ねていった。

「ここのところ帝国が急速に領土を広げすぎたせいで、食糧不足が問題になってまして。質の良い”おもちゃ”だけを選別するよう、上から指示されたんですよぉ。──ほら、ソフィアさんもそろそろ25でしょう? さすがにその歳でそんなことをやってるのは、こっちも見てられないって言うかぁ………」

 手入れされた爪にチラチラと目をやって、面倒くさそうに言うエルザ様。

 そんな彼女の姿を見て、私はようやく悟ってしまう。

 あぁ、彼女は──私に飽きてしまったんだな、と。

 フローリアでの手腕を評価され、グランツ帝国外務省特務長官へと昇進したエルザ様は、日々多くの植民地支配に関する業務をこなしてきた。様々な国の尊厳を奪い、大勢の誇り高き女性たちの人生を踏みにじるなかで、彼女は私への興味を失ってしまったのだろう。

 私という人間が特別だったのは、フローリアの聖女だった頃だけの話で。

 今ここにいるのは、五年という月日で消費され尽くした、ただの惨めな年増女に過ぎないのだから。

「………ぁ」

 私は自分の身体を見下ろす。

 五年の歳月をかけて劣化した、女としての肉体を俯瞰する。

 薄い桃色だったおまんこは、度重なる出し入れで色素が沈殿し、醜く黒ずんでいた。乳首とクリトリスは親指大にまで肥大化し、呼吸に合わせて先端に取り付けられた小さな鈴がチリンチリンと音を鳴らす。

 だけど何より違うのは、大きく膨れてへそが飛び出た私のお腹。

 妊婦モノのアダルトビデオを撮ってみたいという理由で、帝国浮浪者の種によって孕まされた私の身体は、かつてとは比べ物にならないほど型崩れしていて。乳房は張りを失って垂れ下がり、腰回りには余分な脂肪がだぶつくようになっていた。

 

「というわけで、すみませんがさよならです。あ、イリアちゃんは生かしとくのでそこは安心してください。彼女、プリケツ芸人として立派にやってますよ~~。ソフィアさんの愛ある教育の賜物ですねぇ」

 エルザ様は退屈そうに爪に息を吹きかけると、そう言って、私の顔を見もせずに話を切り上げた。

「……ぇ、ぁ……」

 長い時間をかけてようやく、私は現実を認識する。

 永遠に続くと思われたこの屈辱が、ぷっつりと終わることを自覚する。

 ──死にたくない。

 不思議なことに、奴隷としての屈辱の日々はむしろ、私の中の死への恐怖を膨れ上がらせていた。かつての幸せな時間では目を逸らしていられた冷たい感覚。それが今再び、やすりのように私の心を削っていく。

 ──死にたくない。

 ──死にたくない。

 ──死にたくない。

「──ひっ……」

 唇から小さな声が漏れた。

 重荷の身体はぶるりと震えあがった。

 死への恐怖に取り憑かれた、無力な私にできることは。

 いつも通り、たった一つしか存在しなかった。

「い、い、嫌です!! わ、私まだ! 死にたくありませんっっ!!」

 重心のずれた身体をぐらりと前倒しにし、エルザ様の足にみっともなく縋り付く。醜くくしゃくしゃになった顔を革靴にこすり付けながら、ふとハッと思い出し──私は両脚を開いて尻を掲げた。

「ほ、ほらほら~~! イリアのプリケツにも負けないデカケツですよぉ~~!! 叩いて楽器にもオナホにも使える実用的なおケツですよ~~♡ ふりふり~~♡ プリプリ~~♡」

 五年前──私が処刑から逃れるために、民の前で晒した間抜けな姿勢。

 丸出しの尻を振り乱し、肛門深くに突き立てられた帝国旗を左右に揺らすことで命を拾った、最初で最後の成功体験を再現する。

「フローリアの聖女はバカ女ぁ♪ うんちもおしっこも食べちゃいまぁす♪ 身体は汚くなったけどぉ♪ チン媚芸はキレキレでぇす♪」

 少しでも面白く思ってもらえるよう、即興でお下劣な歌を歌った。

 とにかく自分の価値を貶めて、帝国への精一杯の忠誠を誓うが、その反応は芳しくない。

 エルザ様はただ冷たい瞳で、へらへらと笑う私を見下ろす。

「…………」

「だ、だから──♪ だ、だか、らっ……お、お願いしますぅっ!! 許してっ! 許してくださぁいっっっ!!!」

 結局、この凍った空気に耐えきれなくなった私は泣き喚いて。

 妊娠してたるんだ尻肉を、ぷりぷり♡ヤケクソのように振り続けた。

「だから、私にはもうどうにも────あ」

 鬱陶し気にため息を吐いていたエルザ様が、ふと顔を上げた。

 退屈に曇っていた瞳の奥で、きらりと小さく光が灯る。

「そうだ! ソフィアさんちょうどいいですし、”あれ”に出場してみるのはどうですかぁ?」

「………え?」

 間の抜けた声を漏らす私の眼前で、エルザ様の口元がゆっくり弧を描く。

 それは、私が久しぶりに目にする──嗜虐に歪んだ笑みだった。

 

「ふうぅう゛~~~ッッ!! んぐぅう゛ぅ~~~~ッッッ!!!」

「ぶははっ!! 見ろよあの顔ブッッッサ(笑)」

「ケツ穴ももっこり盛り上がってやがるw お~い、子ども出すのはそこからじゃないぞ~~w」

 私の盛り上がった肛門と赤らんだイキみ顔を指さして、手を叩きながら帝国民が笑う。

 そんな彼らの野次に合わせて、私は下腹部に力を入れた。

「ふん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ッッ!? ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~~ッ゛ッ゛ッ゛!!!!」

 ──むり……! むりむりむりむりぃ……!!

 こめかみに血管を浮き上がらせ、汗ばんだ太ももを外に開き、浮き上がったお尻をふるふる震わせる。大きく横に引き伸ばされた陰唇からは、粘液に塗れた子どもの顔が見えていて、そのままぶりんっ!!と一気に飛び出した。

『おーーーっとエントリーナンバー2番、フローリアの性女様(笑)、頭を出し終えて大幅リード!! このまま他2人を引き離して、帝国ザーメン製赤ちゃんを最初に捻りだす女となるのか~~~~~!?』

 一番大変な頭部を出し終えたことで、司会がハイテンションに叫び散らす。それに合わせて両隣の奴隷たち──私と一緒にこの”赤ちゃん早産みレース”に参加させられた少女たちが、焦ったように喚き始めた。

「ちょ、ちょっとあんた待ちなさいよ!! アタシは……アタシは国のために、絶対に負けるわけにはいかないのよォ!!」

 水色のポニーテールにキリリと吊り上がった瞳。

 歴史ある魔導国家の天才魔術師──”水鏡の賢者”の異名を持つ彼女は、膣から中途半端に飛び出した頭をぶら下げたまま、目を見開いて叫んでいた。

「お願いします……お願いします………! わたし……わたしまだぁっ! 死にたくないんですぅっっ!!」

 薄桃色のセミロングと愛らしい童顔。

 文化に富んだ芸術国のお姫様──国民から”陽だまりの天使”と愛された少女は、逆子なのかピンク色のおまんこから白いお尻だけをはみ出させて、涙ながらに訴えていた。

 彼女らの首には私と同じように、いつか見た絞首用の縄が括られていた。

 三人のうち誰かが産み終え勝利すれば、そのまま残り二人の縄は引かれて、産みかけの赤ちゃんと一緒に息絶える。

「うるさいうるざいうるざい゛ゔるざぁい゛ッッ!!! 私だってまだ死にたくないの生きだいの゛ッ!!! こんな、こんなところで、私の人生が終わりだなんで──ふんぎぃい゛い゛ぃい゛いぃい゛~~~~~~ッッッッッ!!!!!」

 私はただ、自分が生き残るためだけに。

 ひたすら足掻き続けた。

 

「ひッ、ひッ、ふぐぅう゛ぅ~~~~ッッ!! ひッ、ひッ、んぐぐぅう゛ぅ~~~~~ッッッ!!!」

 昔、妊婦という存在に憧れていた頃、たまたま耳にしていた独特な呼吸方法を思い出す。リズムに合わせて息を吸い、吐き出すタイミングでおへそに力を籠めて、小さな身体を少しずつ押し出していった。

 ──ミチ……ミチ、チ……!!

「うあ゛、あ゛ぁ…………! んぐぐぐぐぐぐぐ………!!」

 股が裂けるかのような激痛が走り、大量の涙が目尻から零れる。

 しかしそれでも、私はあと少しの勝利を目指して一気にイキんだ。

「あがぁ……ッ!! んぐッ、ん゛ん゛ん゛ん゛、ん゛ん゛ーーーーーーーーッ゛ッ゛ッ゛!!!」

 ぬめりと光る身体が這い出てくる。

 私との繋がりを示すへその緒が見えてくる。

 そして──。

 ──むりむり……ぶりんっ!! 

 ──オギャアァァ!! オギャァアアァア!!!

 

『決着!! 勝者は、エントリーナンバー2番、フローリアの性女ソフィア~~~!! おめでとうございますぅ──それでは、残りの負け犬二人はさようなら~~~(笑)』

「ひッ──! や、やだ……やだ……!!」

「やめてやめてやめてくだざっ──!?」

 ──ガコンッ!!

 無機質な機械音と共に二本の縄が引き上げられた。

 青ざめた二人の身体が宙に浮きあがる。

「ぎぃ……あ………!!」

「か……ひ………!!」

 二人はしばらく空中でじたばたと、なんとか生き永らえようと両手でガリガリ縄の表面を搔いていたけれど、やがてピクッ!と全身を跳ねさせて、そのままぼとんっ、と落とすように力なく腕を下した。

「…………」

「…………」

 ──じょぼぼぼぼ……♡

 ──じょぼ♡ じょぼぼ~~~♡

 泡を吹き、涙を流して、弛緩した尿道から羊水混じりの小便が漏れ出ていく。

 ピーンと伸びた両脚の間には、産みかけの赤ちゃんがぷらぷらとおしっこに塗れながら揺れていて、その子たちは産声を上げることもなく、そのまま冷たくなっていった。

「はっ……はぁ………はぁっ………」

 二人──いや、四人の亡骸を見つめながら、私の思考も冷えていく。

 勝利し、出産の痛みと死への恐怖が薄れていく中で、私の中に沸き上がるのは、また別の昏い感情だった。

「はぁ……は、ぁ………」

 今日も生き延びたという安心感。

 どこまでも続くような罪悪感。

 そして──これから何が起こるのかという、新たなる恐怖。

『ソフィア選手お疲れさまでした! 産まれた子どもは──男の子! 残念、ハズレですね~~~(笑)』

 へその緒を切り、子どもを抱えた司会はその股間を確認すると、嘲るようにそう吐き捨てる。そしてニヤニヤと薄気味悪く笑いながら、同じく笑みを浮かべている観客に向かって、煽るような口調で言い放った。

『それでは最後にエキシビションステージ!! この穢れた劣等民族の血が混じった意地汚い赤子を、どう処理するのがよろしいでしょうか~~?』

「やっぱ殺処分だろ! 母親のコイツに責任持って殺させよ~ぜ!!」

「いやいやもったいね~~って。去勢して女として育ててみようや。いつになったら自分の性別に気づくのかねw」

「豚の餌にしてその豚とこのブス豚の交尾だろ!! 親子丼~~ってな(笑)」

 醜悪な声が咲き乱れる。

 生まれたばかりの尊い命を弄ぶ方法を、面白おかしく話し合っていく。

 

「えへ……、へへ、へ………」

 私はただ、笑っていた。

 

 ずっと──ずっと欲しかった、私の子ども。

 帝国の血が混じっててもなお愛おしい、腹を痛めて産んだかけがえのない我が子の地獄を前にしても、奴隷である私は笑うしかなかった。

「えへへ、へへ……♡ みなさぁ~~ん♡ 私と私の赤ちゃんで、い~~ぱいっ!! 遊んでくだしゃあ~~いっっ♡♡」

 笑い、笑い、笑い。

 涙を流しながら笑い続け。

 

 そうして私は、声を出さずに。

 誰にも伝わらぬよう口の形だけで、ゆっくりと言葉を紡いでいった。

 ご め ん ね

 祝福でも、祈りでもなく。

 たった四文字の呪いだけを、私は我が子に吐き捨てた。

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スランプ解消のために書きました、優しくて清楚な聖女様~~の続編です。

元々オムニバスを書きたくてネタ出しをしていたのですが、私のオリジナルの続編とか需要あんのか?そもそもソフィア以外のほとんどキャラ立ちしてないちょい役にエロさは感じられるのか?とか色々考えて訳がわからなくなってしまっていました。

そこで私が考えたのは─────そうだ!微妙だと思ったなら全部Fanboxの方に突っ込もう!

投稿しない良作より投稿する駄作!

せっかく書いたんだからある程度俺の小説が好きな人が見るところで投稿してやんぞっ!って精神でこれからやっていくので、よろしくお願いします。

Comments

たぴおか

聖女様、帝国が攻めてきても来なくても幸せになれないの可哀想で好き。この後なんやかんやあって帝国が滅んで生き残っても、今までのトラウマで動けなそうだしイリア達に一生謝りながらおこぼれもらって生きて欲しい。