【R-18G注意】 対策委員会・プレデリアン襲撃出産 (Pixiv Fanbox)
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今さっきの話で申し訳ありませんが、以前Skebで納品したものの、pixivへの投稿を失念していた作品を見つけました。つきましては、Fanboxにて投稿させていただきます。
月末の10時半という直前のタイミングで、このような急な対応となってしまい申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。
キヴォトス自治区外縁、アビドス砂漠の更に奥。
生徒、市民、先生……それどころかあのゲマトリアやカイザーですらその存在を認識していないであろう極秘研究施設から、一匹の“災厄”が這い出していた。
「───クルルルル……シュゴオォォ……」
乾いた風に、およそ生物が発するとは思えない音が混じる。喉の奥で硬質に鳴るクリック音と、高圧ガスが漏れ出るような不快な呼吸。
太陽光を鈍く弾く、濡れたような質感の外骨格に、背中から尾にかけて連なる凶悪な骨の突起。後頭部からは特徴的なドレッド状の触手が垂れ下がり、口元には四本に分かれた外顎が禍々しく蠢いている。
二足で立つその姿は、どこか人型にも見た。だが、それは人間の——否、この世界のいかなる生物の系譜にも属さない。進化という名の摂理を嘲笑うかのように、異なる星の論理で組み上げられた肉体。
───プレデリアン。
最強の狩人を宿主として誕生した、忌むべき融合個体。
「———キシャアアアァァァ!!!」
突き抜けるような青空に向かって、絶叫が轟く。
それは威嚇か、解放の歓喜か。あるいは、これから始まる狩りへの宣言か。
学園都市の日常を蹂躙することになる悪夢は、こうして誰にも観測されることなく、荒野へと解き放たれた。
*──────────────────────────────────────*
「今月の返済額、なんとか目標達成できそうですね」
アビドス高等学校、対策委員会部室。
アヤネがノートパソコンの画面を見ながらそう報告すると、長机を囲んでいた対策委員会メンバーの表情に、安堵の色が広がった。PC上の表計算ソフトには、目標額をわずかに上回る黒字の数字が入力されている。
カイザーPMCとの対立に、ホシノのテラー化。
様々な危機を乗り越えた後でも、彼女たちにのしかかる重い現実は何一つ変わってはいない。だが、それでもまたこうして一ヶ月を無事に乗り越えられたその事実に、張りつめていた肩の力がゆっくりと抜けていった。
「おー、よかったよかった。みんな頑張ったねぇ」
うへぇ、と気の抜けた声を漏らしながら、ホシノが小さな身体を伸ばした。そのまま机に上半身を預け、柔らかい頬を硬い木板に押し付ける。癖のあるピンク色の髪が机の端から垂れ下がり、微かに揺れた。
「他人事みたいに言わないでよね。先輩、いっつもサボってたじゃん」
セリカがそう文句を垂れながら、半眼でホシノを睨む。今月のバイト、必死に働いたのは主に誰だったか。少なくとも目の前で欠伸をしているこの先輩ではない。頬を膨らませて抗議するセリカに、しかしホシノはにへらと笑うだけだった。
「えー、おじさんちゃんと働いたよー? ほら、精神的サポートっていうかさー」
「見てただけでしょ!?」
きゃんきゃんと騒がしい声が教室に響いたが、ホシノはどこ吹く風と言った様子でひらひらと手を振るのみ。そんな喧嘩とも言えぬ恒例のやり取りを繰り広げていると、ノノミがニコニコと満面の笑顔を披露しながら、間に割って入ってきた。
「まぁまぁ、セリカちゃん。はい、紅茶とケーキ持ってきましたよ~~☆」
彼女が持つトレイの上には、湯気の立つティーカップと人数分のケーキが並んでいた。ふわりとした生クリームとイチゴが、照明を反射し艶やかに輝いている。
「ん、ありがとうノノミ」
窓際のシロコが振り返り、静かに礼を言う。いつものクールな表情だが、その青い瞳は柔らかく細められている。
甘い香りが、埃っぽい部室の空気を塗り替えていった。セリカの表情も少しだけ緩んだ。小言を言いながらも、差し出されたケーキ皿を素直に受け取る。
会議ムードから、休憩ムードへ。
五人は美味しいケーキを時折口に運びながら、何気ない会話に花を咲かせていった。
窓の外では、砂漠化した街並みがぎらぎらと輝く太陽に照らされている。廃墟と化したビル群、砂に埋もれた道路、人の気配のない商店街。寂しい景色だ。
けれどシロコは、その変わらぬ光景を眺めながら紅茶のカップを傾ける。温かな液体が喉を通り、心まで温めてくれる気がした。
今日は先生も訪れておらず、教室には対策委員会のメンバーしかいない。
たった五人。他校とは比べるべくもない人数。
だがそれでも、ここには確かに日常があった。
いつもの光景。いつもの平穏。
対策委員会の、のどかなな午後———
「───ん?」
突然、シロコが声を上げた。
頭頂部の二つの狼耳が、ピクリと震える。
「今、なにか聞こえなかった?」
「? 何かって………」
シロコの疑問に四人の手も止まり、教室が静まり返った。
耳を済ませると、聞こえてくるのは風の音、砂が窓を叩く音、五人の息遣い、それから───。
──クルルルルルル………──
鼓膜にへばりつくような異音。
喉の奥で骨を鳴らすような硬質なクリック音と、濡れた管を通る空気が漏れるような、湿った呼吸音。機械の駆動音ではない。ましてや、通常の生物が出す声でもない。生理的な嫌悪感を催す、異質な響き。
「───上」
シロコが鋭く天井を見上げた。釣られて四人も視線を上げる。
そして、次の瞬間。
──ドガァアァアァアァァアンッッ!!!
見上げた天蓋が一気に弾け飛び。
粉塵と共に、巨大な質量が叩きつけられる轟音が、平和な教室を粉砕した。
「っ───!?」
降り注ぐコンクリート片。吹き荒れる粉塵。
視界が白く塗り潰される。
紅茶のカップが手から滑り落ち、床に激突して甲高い音を立てた。琥珀色の液体が飛沫を上げ、陶器の破片が四散する。
巻き上がる白煙の中で、その影は降り立った。
最初に見えたのは、鈍く光る黄土色の甲殻。
次いで、頬から伸びる四本の牙のような突起。
そして──内顎と外顎、二重構造の口腔から滴り落ちる粘液。
「——シャアアアァァァッ!!」
金切り声と重低音が混ざり合った、不協和音の絶叫が鼓膜を劈く。
部室の空気そのものが震え、窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げた。肌を刺すような圧。全身の毛穴が一斉に粟立つ。
腐臭。
獣とも腐肉とも異なる、嗅いだことのない異臭が彼女たちの鼻腔を焼いた。
本能が警告している。
———逃げろ、と。
「なっ……何、こいつ………!?」
セリカが戦慄に目を見開いた。
声が震え、脚も震え、それでも視線だけは一向に目の前の異形から逸らせなかった。逸らした瞬間に殺される。そんな根拠のない確信が、彼女の身体を縫い止めていた。
アヤネは腰が抜けたように床に座り込み、ノノミは悲鳴すら喉の奥で凍りつかせている。シロコは咄嗟にライフルへ手を伸ばしていたが、その指先は微かに震えていた。
ただ一人。
ホシノだけが真っ先に自らのショットガンを掴んで、眼前の怪物に銃口を向けていた。
「───皆、逃げっ」
自身を盾にするように、前へ出る。
だが、それよりも早く。
「——ギシャアアアアアッ!!!」
爆発的な加速。
視認すら許さぬ速度で距離を詰めたプレデリアンが、ホシノの小さな身体を床に叩きつけていた。
「がっ———!?」
背中から床に激突する衝撃。肺から空気が強制的に絞り出される。
ショットガンが手から弾き飛ばされて、乾いた音を立てながら遠くへ転がった。
「ぐぅ、………!?」
重い。見た目以上の、圧倒的な質量が華奢な体を押し潰す。
鉤爪を備えた指が両肩を床に縫い留め、どれだけ足掻いても微動だにしない。
「クルルルル……シュゴォォ……」
外顎が、花弁のようにして開く。
粘液が糸を引いて、ホシノの頬に滴り落ちた。
「ホシノ先輩ッ!!」
シロコの悲鳴と同時に、数発の銃声。
狙いは正確だった。アサルトライフルの弾丸はプレデリアンの側頭部を正確に捉え───しかし、火花を散らしてそれは弾かれる。硬い外骨格が銃弾を拒絶し、僅かな金属音だけが虚しく響いた。
──ブンッ!!
醜悪な怪物の動きは淀みない。
ホシノを抑えつけたまま、尾だけが閃いた。鞭のようにしなった一撃が、シロコの腹部を無慈悲に薙ぎ払う。
「───ッ、ッ!?」
圧迫された肺からは声すらも出ない。軽い身体が宙を舞い、コンクリートの壁に叩きつけられる。そのままズルズルと床に崩れ落ちて───シロコは動かなくなった。
一人。
プレデリアンは跳躍し、次の獲物へと牙を向ける。
「ひっ───」
セリカは銃を構え反撃しようとしていたが、引き金に指がかかるより早く、巨大な手が彼女の首を掴んでいた。頸動脈を圧迫され、数秒と持たない。セリカの瞳から光が消えていく。手から滑り落ちた銃が、乾いた音を立てた。解放された身体は糸の切れた人形のように崩れ、そのまま動かなくなる。
二人。
ノノミは逃げようとしていた。腰が抜けたまま、それでも必死に後退ろうと足掻いている。だがしかし、無駄だった。
「い、ぎぃ───」
プレデリアンの手が頭部を掴み、床に叩きつける。
たった一度の衝撃。
それだけで、ノノミの身体から全ての力が抜け落ちた。
三人。
「…あぁ、……ぁ……………:
アヤネは動けなかった。最初から一歩も、座り込んだまま涙を流し、ただ震えているだけ。振り下ろされるプレデリアンの太い尾。こめかみへの一撃を受けて、アヤネの身体がゆっくりと傾き──床に倒れ込んだ。
四人。
───静寂が、崩壊した部室を支配する。
ホシノは床に仰向けのまま、その光景を見ていた。起き上がろうとして、身体が動かないことを知る。先程の衝撃で、全身が痺れていた。四人の仲間が床に転がっている。誰一人として、動く気配がない。
重く、湿った足音。プレデリアンが戻ってきた。巨大な影がホシノを覆う。
見上げると、そこには眼球のない有機的な生物の顔。
外顎が開き、喉の奥でクリック音が鳴る。
太い尾が、死刑執行の槌のように振り上げられいく。
「みん……な……」
掠れた声が、唇から漏れた。
視界の端で、動かない四人の姿が滲んでいく。
手を伸ばそうとした。だが当然、届かなかった。
───衝撃。
こめかみを打ち据えられる鈍い痛み。
視界が白く弾け、音が遠のいていく。世界が傾いた。最後に見えたのは、埃っぽい天井──穴の空いた、崩れた天井だけだった。
意識が、深い闇の底へと沈んでいった─────。
────────────────
────────────
────────
──ピチャリ。
「…ぅ………」
水滴が落ちるような湿った音で、ホシノの意識は浮上した。
まぶたが重い。頭の芯が痺れている。ここがどこなのか、自分がどうなったのか、思考が上手く繋がらない。
「…ぅ、ん………」
不快な熱気が、全身を包んでいた。
砂漠地帯で乾燥しているはずのアビドスでは、ありえない湿度。むせ返るような空気が肺を満たし、呼吸するだけで喉の奥がべたついた。
ホシノはのろりと目を開ける。
そして───視界に入ってきたのは、醜く歪められた日常だった。
「なっ────」
見慣れた部室の天井や壁が、黒く濁った樹枝状の物質で覆い尽くされていた。
蛍光灯の白い光はもうない。天井に張り巡らされた粘膜質の構造物が光源を飲み込み、僅かに差し込む外光だけが、変わり果てた室内をぼんやりと照らしている。壁面を這う無数の管状突起は、まるで血管か腸のようにうねりながら、部屋全体を有機的な迷宮へと作り変えていた。
ほんの数時間前、皆で囲んでいた長机。その輪郭だけが、黒い繭のような塊の中にかろうじて見て取れる。机上に置かれていたはずのノートパソコン、書類の束、アヤネが丁寧にまとめた帳簿──全てが粘液に呑まれ、もはや原形を留めていなかった。
ここはもう、彼女たちの部室などではない。
なにか別の───悍ましい生命体のために整備された、専用の巣穴だった。
ホシノは起き上がろうと、身体に力を込める。
だが───、
「───ッ!」
動かない。
金縛りではない。物理的に、床に固定されている。
ホシノは自身の身体を見下ろした。手足が、胴体が、制服の上から塗りたくられた大量の粘液によって床面へと完全に埋め込まれていた。
樹脂状の液体は生暖かく、まだ完全には硬化していない。だがその粘度は異常であり、身動ぎするその度に、ぐちゃり、ぐちゃりと不快気な音を立てて糸を引く。重く纏わりつく質量が全身を拘束し、決してホシノを解放しようとはしなかった。
「なに、これ…………」
混乱する頭で、周囲を見渡す。
そして───その光景に息が止まった。
「シロ、コちゃん………?」
すぐ隣に、シロコがいた。
仰向けのまま、ホシのと同じように床に「貼り付けられて」いる。両腕は力なく体の横に垂れ、肩から腰にかけてを黒い樹脂が覆い尽くしていた。銀色の髪が粘液に濡れて頬に張り付き、いつも凛としていた顔は今、虚ろに天井を向いている。
「セリカちゃん……! アヤネちゃん……! ノノミちゃん……!!」
首を巡らせると、他の三人も同じだった。
セリカは、ホシノの足元側に横たわっていた。勝気な表情は消え失せ、眉間に苦悶の皺を残したまま意識を失っている。小柄な身体は樹脂の繭に半ば埋もれ、露出しているのは顔と、だらりと投げ出された片腕だけ。その指先が、微かに痙攣するように震えていた。
アヤネは、シロコの向こう側。几帳面な彼女らしく、眼鏡だけはなぜか外されずに残っていた。だがレンズは粘液で曇り、閉じられた瞼からは乾いた涙の跡が頬を伝っている。怯えたまま意識を失ったのだろう。その表情には、恐怖の残滓がこびりついていた。
ノノミは、部屋の隅近く。いつも穏やかな笑顔を絶やさない彼女の顔が、今は蒼白に強張っていた。豊かな髪が床一面に広がり、その一本一本が樹脂に絡め取られて、まるで黒い蜘蛛の巣に捕らわれた蝶のようだった。
五人が、放射状に並べられている。
まるで何かの儀式のように。
あるいは、後で「使う」ために保管されているかのように。
規則正しい呼吸に合わせて、わずかに胸が上下していることだけが、彼女たちがまだ生きている証だった。
「みん、な………」
全滅。
対策委員会の全員が意識を奪われ、この冒涜的な巣の「部品」として飾り付けられている。抗いようのない現実が、彼女の視界を埋め尽くしていた。
孤独な恐怖が、ホシノの背筋を這い上がる。
自分だけが目覚めてしまった。この悪夢のような状況を、たった一人で認識しなければならない。その絶望が、じわじわと胸を締め付けていく。
すぐさま皆を起こそうと、声を上げようとした──その時。
──クルルルル………シュゴオォォ………
「っ───!」
喉の奥で骨を鳴らす音。蒸気が漏れるような独特の呼吸音が、すぐ近くで響いた。
ホシノは凍りついたように動きを止め、ゆっくりと視線を巡らせる。暗がりの中、粘液に塗れた床の上に、それは変わらず佇んでいた。
プレデリアン。
眼球のない滑らかな頭部が、ゆっくりとこちらを向く。視線などないはずなのに、明確に「見られている」と感じた。暗闇の中で、濡れた外骨格だけがぬらりと光を反射している。
「や、やめ……来るな…………!」
震える声で訴えかけるが、言葉の通じぬ怪物が従うはずがない。プレデリアンはゆっくりと歩み寄り、“シャァアァ……”と低い唸りを漏らしながら、ホシノの傍らに屈み込んだ。。
巨大な体躯がホシノを多い、外光を完全に遮る。
視界が暗転し、腐臭と粘液の臭いだけが鼻腔を満たした。
「やめ、……やめてっ………!」
本能的な恐怖が喉から悲鳴を絞り出し、その命乞いを弄ぶかのように、怪物は動き出していた。
外顎が、大きく開いていく。
四本の牙のような突起が左右に広がり、その奥にある内顎が姿を現した。金属質の光沢を放つ、小さな第二の口。
だが───それだけではない。
内顎の更に奥から、何かが蠢いている。
──ジュルルルルル………
管状の器官だった。
生々しく光る、太く長い管。表面には粘液がべったりとまとわりつき、先端が微かに開閉を繰り返している。脈動するように蠕動し、その凶器はゆっくりとホシノへ向かって伸びてきた。
「ひっ……な、なに……やだ、やめっ……!」
理解が追いつかない。だが本能が叫んでいる。あれを受け入れてはいけない、と。
プレデリアンの手がホシノの顎を掴んだ。万力のような握力に抗う間もなく、強制的に口を開かされる。
「んぐっ……! ぅ、あ……!」
歯を食いしばろうとしても無駄だった。外顎の一本がこじ開けるように口腔に差し込まれ、顎関節が軋む。
───瞬間。
「────ッッ!!」
唇に、何か生温かいものが触れた。
ぬるりとした感触。何かの管の先端が、こじ開けられた口腔に一気に侵入してくる。
「んんっ……! んぅぅっ……!」
喉の奥へと押し込まれていく異物感。圧迫感。嘔吐反射が込み上げるが、吐き出すことすらできない。管は容赦なく奥へ奥へと進み、食道の入り口を押し広げていった。
呼吸ができない。視界が明滅し、意識が遠のきそうになる。
その時──管が、脈動した。
──…ックン、…ックン、…ックン、…ックン
蠕動運動。何かが管の中を移動している。喉の部分が、ボコリと奇妙に膨れ上がった。丸く、硬く、生温かい何かが、ゆっくりと押し出されてくる。
「────────ッッッ!!!」
声にならない絶叫が、塞がれた喉の奥で消えていった。
──一つ目。食道を通過し、胃の中へ落ちていく感覚。異物が体内に入り込むおぞましい実感が、全身を駆け抜ける。
──二つ目。また何かが管の中を降りてくる。同じように喉を通過し、体内へと送り込まれていく。
──三つ目。涙が止まらない。身体が震えている。それでも拘束された身体では何一つ抵抗できず、ただ受け入れることしか許されていなかった。
四つ目、五つ目、六つ目───。
幾つの卵が産み付けられたのか、もう数えることすらできなかった。ただ異物が次々と体内に送り込まれる感覚だけが、意識の全てを支配している。
やがて──産卵管が、ゆっくりと引き抜かれていった。
「っは……! げほっ、がはっ……!」
解放された喉から激しい咳が漏れる。粘液混じりの唾液が口の端から溢れ、顎を伝って床に滴り落ちた。
呼吸が戻る。だが、安堵はない。
腹部には異物感が残っている。重く、生温かく、確かにそこに「在る」何か。自分のものではない、別の生命の気配が、内側から彼女を蝕んでいた。
「いやぁああぁぁあああぁぁ!!!」
得体の知れない感触にホシノが怯えていると、足元側からセリカの悲鳴が聞こえてきた。その絶叫を皮切りに、周囲から困惑の声が次々と漏れ出す。
「な、なんですか!? どうなってるんですかこれ!?!?」
「う、うごけ、…ません………!」
「ほ、ホシノ先輩っ!! たすけ────」
助けを求める後輩たちの必死な声。
しかし彼女たちの言葉は、最後まで紡れることはなかった。
──ズシン。
重い足音と共に、巨大な影がシロコの上に落ちる。プレデリアンの手が彼女の顎を鷲掴みにし、万力のような握力で口をこじ開けた。
「んぐっ……!? ま、まっ──んんぅぅっ!!」
産卵管が躊躇なく口腔へと侵入し、喉の奥へと押し込まれていく。銀色の髪が粘液に汚れ、凛とした青い瞳が苦悶に歪んだ。
「シロコちゃんっ!!」
ノノミが悲鳴を上げる。だがその声は、すぐに自らの絶叫へと変わる。
シロコの胃袋に何かを植え付け管を引き抜いたプレデリアンは即座に跳躍し、ノノミの真上に着地した。
「ひぃっ──んんんっ!! んぅぅぅっ!!」
ノノミの身体が痙攣する。管が蠕動し、物体が喉を通過していく度に大きく震えた。涙が止めどなく溢れ、恐怖に染まった瞳が虚空を見つめている。
産卵管を引き抜いたプレデリアンが、次の標的へと向かう。
「──んぐぅっ!! んんんっ!!」
「──ひぅっ、んんんんっ!!」
セリカ。アヤネ。
二人にも容赦なく悪夢の管が侵入し、ゴポリ、ゴポリと湿った音を立てながら送り込まれていく。背が弓なりに反り、口元から涎を垂れ流しながら、その蹂躙を受け入れ、丸い異物が体内に落ちていく感触を、何度も何度も味わった。
やがて──全ての行為が終わった。
プレデリアンは最後の獲物から身を離すと、部室の隅へと移動していく。暗がりの中で蹲り、まるで「待つ」かのように動きを止めた。
静寂が戻る。だがそれは、安息とは程遠いものだった。
「う……ぁ………お腹、が……熱い………」
「なに、これ……なにか、いる……中に、なにかいるぅ……」
「いや……いやだ、いやです……いや、いやぁ…………」
「痛い……痛い……お腹が、張り裂けそう………」
「……っ、動いて……動いてるっ………!」
五人の呻き声が、冒涜的な巣に木霊する。
腹部の異物感は、時間と共に増していった。最初はただ重く、生温かいだけだった感触が、今は明確な「存在」として主張を始めている。
ホシノは自らの腹を見下ろした。制服越しにも分かるほど、下腹部が僅かに盛り上がっている。さっきまでは平坦だったはずの場所が、今は緩やかな膨らみを帯びていた。
苦しむホシノたち。
徐々に温度の増していく物体に恐怖を膨らませていると───ついに、その時が訪れた。
───ドクン。
「あ、ぁ………あぁ、……あぁああぁあッ!?」
ノノミの悲鳴が、一際大きく響いた。
彼女の腹部が、目に見えて膨張を始めていた。緩やかだった膨らみがみるみるうちに盛り上がっていき、制服のブラウスを内側から限界まで押し上げる。
「の、ノノミ先輩っ!?」
「なに……何が起きてるの………!?」
アヤネとセリカの声が重なる。
だが、誰も動けない。粘液で床に縫い留められたまま、隣で起きている異変──これから自分の身にも起こるであろう地獄を見つめることしか出来ない。
ノノミの腹は膨張を続ける。まるで早送りの映像のように、数秒ごとにその輪郭が変わっていき、やがてそれは臨月の妊婦を思わせる巨大な膨らみへと変貌した。
「ぃたい……、いたい………!」
パツン、と音を立てて、制服のボタンが弾け飛んだ。続いてもう一つ、もう一つ。限界を超えた布地が次々と悲鳴を上げ、露わになった腹部が薄明かりに晒される。
晒された肌は異常部だった。青白く血管が浮き上がり───蠢いている。
ボコッ、と水面から気泡が浮き上がるかのように、内側から何かが押し上げていた。ボコッ、ボコボコッ、と不規則に、だが確実に、腹の中の「それ」がその存在を主張し始める。
「いたい、いだい、いだい、いだい゛───!!」
ノノミの声は苦悶に満ちていた。
自らの腹を見ることも出来ず、ただ天井を見つめ激痛に悶えながら、内側からの胎動を感じている。
「ノノミ、ちゃん………」
──ボコボコボコボコッ。
蠕動が激しさを増していく。腹の表面が沸騰した水面のように波打ち、その度にノノミの口から、もはや言葉にならない絶叫が漏れる。
やがて、腹の中心に複数の影が集まっていくのが見えた。皮膚が限界まで引き伸ばされ、薄くなった肌の下で鋭い牙が光ると───、
──バリッ!! バリバリベリバリィッッ!!!
大量の紙を一度に引き裂くような音と共に。ノノミの腹部が、勢いよく弾けた。
「あぁあぁあッ!? が、ぁがああ゛ぁァあ゛あぁァあ゛あァぁ゛あ!!!」
皮膚が、筋肉が、内側から食い破られていく。鮮血が噴水のように吹き上がり、崩れた天井まで飛沫を散らした。引き裂かれた肉の断面から、臓物とともに“それ”は溢れ出す。
「───キィイィ!!」
現れたのは、暴れていたものの正体。
蛇のような胴体に、異様に大きな頭部。眼球のないのっぺりとした顔面を左右に振っている小さな怪物は、血に濡れた体躯をくねらせながら、ノノミの──ノノミだったものの上で、誕生を祝うかのように嘲笑い踊っていた。
「ノノミ……ノノミぃいぃッ!!!」
シロコの悲鳴。セリカの呻き。アヤネの嗚咽。
だが、地獄はまだ終わらない。植え付けられた卵は、まだ“4人分”残されている。
──ドクン。
「ひっ……あ、あぁっ………!」
次に悲鳴を上げたのは、アヤネだった。
腹部が急速に膨張を始めていく。ノノミと同じだ。制服のボタンが弾け飛び、青白い肌が露わになる。紫色の血管が網目のように浮き上がり、表面が脈打つように蠢き始めた。
「いやっ、いやですっ……たすけ、てぇっ………!」
涙に濡れた瞳が恐怖に見開かれている。割れた眼鏡の奥で、絶望が渦巻いていた。風船のように膨れ上がった腹が激しく波打ち、内側から突き上げられる度に、彼女の身体がびくびくと跳ねる。
「あぁああぁッ、いたい、いたいいたいいたいっ!!」
首を振って目の前の惨状を否定しようとするが、体内の怪物は待ってはくれない。
──バリィッ!!
「あぁあああ゛ぁああ゛ああぁぁ゛ああぁぁ゛ぁッッッ!!!」
腹が裂け、真紅の飛沫が宙を舞った。中から複数の幼体が競うように這い出してくる。アヤネの身体が大きく痙攣し──やがて、糸が切れたように動かなくなった。
粘液で汚れた眼鏡が床に転がっている。虚ろになった瞳だけが、何も映さぬまま天井を見つめていた。
「あっ……ぐぅっ………!」
アヤネの最期を見届ける暇すら与えられず、セリカの腹も膨らみ始める。
華奢な身体では、その変化は一層残酷に映った。細い腰回りが不自然に盛り上がり、内側からドンドンと叩かれている。まるで出口を求めて暴れているかのように。
「いや……いやだ……死にたく、ないっ………!」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、それでも必死に叫んでいた。勝気だった少女の面影は、もうどこにもない。
「先輩……ホシノ先輩ぃ………たすけ、て………」
助けを求める声が、ホシノの耳に届く。だが何もできない。身体は動かず、声を返すことすらままならなかった。
「いやぁああ゛あァああ゛ぁァあぁあ゛ァあぁぁ゛ぁああッッ!!!」
──ベチャッ。
腹部が破裂し、血飛沫と共に小さな怪物が這い出してきた。セリカの身体がびくんと大きく跳ね、そしてそのまま──動かなくなる。勝気だった瞳は、もう何も映していなかった。頬を伝った涙の跡だけが、最期の恐怖を物語っている。
「「──────」」
三人が死んだ。
ノノミも、アヤネも、セリカも。腹を食い破られ、怪物を産み落とし、この冒涜的な巣の中で息絶えた。あの賑やかだった日常は、もう二度と戻ってこない。
残されたのは、ホシノとシロコだけだった。
──ドクン。ドクン。
「あぁあッ!? ぐぅうぅうぅ!!」
「い、ぎぃいいいぃいいぃ!!!」
二人の腹部が、同時に脈動を強めていく。
ホシノは自らの腹を見下ろした。既に緩やかだった膨らみは加速度的に増しており、制服の布地が限界を訴え始めている。肌の色は血の気を失い、その下で生物が確かに蠢いていた。前の三人と──すぐ横で死んだ後輩たちと同じ。
隣に視線を移すと、シロコも同様だった。銀色の髪が粘液と汗に濡れ、いつも冷静だった彼女の顔が苦痛に歪んでいる。膨れ上がった腹がボコボコと波打ち、荒い呼吸が漏れていた。
「ホシノ、先輩………」
シロコが掠れた声で彼女を呼んだ。
苦しげに首だけをこちらへ向け、青い瞳がホシノを捉える。
「ごめん、なさい……………」
その謝罪には、一体どんな意味が込められていたのか。
守れなかったことへの懺悔か、生き延びられなかったことへの後悔か。
真相は分からない。そしてもう二度と、分かることはない。
「あ……! あぁああッ!! ああぁあああぁあああぁぁああぁあッッッッッ!!!!」
──バリバリバリバリィ!!!
何故なら、彼女の腹部は赤黒い血のジュースで装飾された生物を産み出しながらぱっくり割れて。何も成し遂げることなく、自らの血溜まりに沈んでいったのだから。
「シロコ、ちゃん…………」
ホシノはその光景を見届け──そしてそのまま、自らの最期を迎える。
──ボコッ。
内側から、異物が押し上げてきた。
──ボコボコッ。
肌の表面が波打つ。小さな突起が、出口を求めて腹を叩いている。
──ボコボコボコボコッ。
痛みはもう、感じなかった。恐怖も、悲しみも、遠くなっていく。ただ腹の中で暴れる生命の胎動だけが、最後の感覚として残っていた。
「みんな……ごめん、ね…………」
掠れた声が、唇から漏れた。
ノノミ。アヤネ。セリカ。シロコ。
四人の顔が、走馬灯のように浮かんでは消えていく。笑っていた顔。怒っていた顔。泣いていた顔。あの日常の中で見せてくれた、たくさんの表情。
その全てが、直ぐ側で横たわる死に顔に塗り潰される。
「……ごめん、ね………」
それだけが、今のホシノに言える全てだった。
──バリッ!! バリバリベリバリィッッ!!!
腹部が裂けた。
鮮血が溢れ、内臓が押し出される。引き裂かれる肉の感触。溢れ出る血の温かさ。それすらも、どこか遠い出来事のように感じられた。
「キイィイ! キィイィ!!」
「キィイイイィイイイィ!!!」
自らの腹の上で踊る、大量のチェストバスター。
それを最後に見届けながら。
「……………あぁ」
ホシノは絶望の中で、静かに瞳を閉じた。
二度と開くことのないその瞼の裏に、眩しいあの日々の残像だけを残して。