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頭が痛い。

俺は今、何を……。

そうか。俺は脱走しようとして失敗し、捕まったんだ。


まりが俺を裏切った。

いや、違う。

あいつの行動は、いつも俺のために動いてくれている。

ということは、あいつの心を洗脳してしまったこの施設が、すべての発端なんだ……。


俺は体を起こそうとした。頭を上げた。


ゴンッ!

!?


頭をぶつけた。

あれ……ここは?と思った瞬間、突如として部屋の灯りがついた。


暗闇に慣れていたせいで、眩しくて目が開けられない。

灯りに目が慣れてきたとき、一人の人影が見えた。


そして、その人影と俺の間を挟む、ガラスの板。

ようやく状況が理解できた。


俺は冷たいコンクリートの床に仰向けで倒れていた。

身体を起こそうとしたとき、ガラスに頭をぶつけたのだ。

地面から80センチほどの高さにガラスの板が敷かれた、小さな部屋に閉じ込められている。


(……ここは、一体……)


体を少し動かしてみる。

膝を曲げると、すぐにガラスにぶつかる。

這うようにして動ける程度の、極端に低い天井。


コンクリートの床は冷たく、湿っている。

臭いもする。どこか、消毒液と鉄錆が混ざったような匂い。


人影は板の向こう側に立ったまま、動かない。

顔は見えない。ただ、静かにこちらを見下ろしている気配だけが、はっきりと伝わってくる。


俺は板を叩いた。


「ここは……どこだ?出せ!」


板の向こう側に立つ人影が、ゆっくりと口を開いた。


「これは強化ガラスだから、絶対に割れませんよ。諦めてください」


どこかで聞いた声。

うまく焦点が合わない目をこらして、その顔を見つめる。


40代ぐらいの女性だ。

見た目こそ美しいが、その表情は曇っており、憐みの色を浮かべて俺を見下ろしている。


俺はそいつの顔を見たことがある。

施設に一番最初に連れてこられたとき、壇上で話をしていた学長だ。


学長が、ゆっくりと続けた。


「ひろみさん。私たちはあなたの親御さんに頼まれて、あなたを更生させるために様々なレッスンを受けて貰い、指導をしてきました。

しかし、あなたのレッスンに対する態度は目に余るものがあります。さらに、ゆきさんまでそそのかし、更生を拒否するように仕向けた」


俺は板に手をかけて押し上げようとしたが、びくともしない。


「私たちには、あなたを更生させる義務があります。なので、あなたが自分からレッスンを受けたくなるように、私たちは“待つ”ことにしました。

レッスンが受けたくなったら、教えてください。それでは……」


学長は部屋のドアへと向かう。


「おいっ!待て!ここから出せよ!!」


そのまま、学長は部屋から出て行ってしまった。


(ふざけるなよ……俺はいったい、どうすれば……)


まわりを見渡す。


ガラス板の下に置かれているのは、犬用の水飲み皿とドッグフード、そして砂が入った猫用のトイレだけだった。


(絶対に、俺は女になんてならない……)


◆


…

……

………


俺はただただ放置され続ける。

ドッグフードを食べるのも、最初は激しい抵抗があった。

だけど、何も食べなければ死んでしまう。

そして猫のトイレで情けなく用を足す。


ここは、人間の尊厳を徹底的に破壊するための部屋だ。


1日、3日、5日……。


身体すら満足に起こせない部屋で、ただただ放置される恐怖。

俺の頭は、もうまともに考えられなくなっていた。


閉じ込められて7日ほどが経ったとき、部屋のドアが開く音がした。


俺は這いつくばるようにしてドアの方へ目を向ける。

学長だ。学長が来てくれた。


「ひろみさん、こんばんは。……と言っても、この部屋にいたら今がお昼なのか夜なのか、分からないですよね」


学長は笑いながら言った。

俺は何も答えられない。


「さて、ひろみさん。あなたは私たちに何か言いたいことはありますか?良ければ話を聞きますよ。

何もなければ、私は失礼させていただきます。次に来るのは、2週間後か一ヶ月後か……」


俺は声を出す。


「あ……う……」


うまく声が出せない。

喉をひねり出し、必死に言葉を紡ぐ。


「ここから……出して下さい……おれ……わ、私……は……」


途切れ途切れになりながら、それでも叫ぶように続けた。


「私を……更生させて下さい……」

学長が口を開く。


「なんですか?もう少しはっきり喋ってください。よく聞こえないので、帰りますよ」


「ま、待って! 待って……下さい。私を……私は……私は更生したいです。女の子になりたいです!」


学長が嬉しそうに笑った。


「ようやく改心してくれたのですね。良かった。私たちは、自ら進んで更生をしようとしている人たちへは、支援を惜しみません。それでは……この穴から腕を出してください」


そう言うと、ガラス板の一部が外れ、直径10センチほどの穴が開いた。


「さぁ、本当に心から更生されたいと思っているのなら、この穴から腕を出してください」


……。


もちろん、俺は心からこの学園に屈したわけじゃない。

それでも、俺は既に限界だった。


軋む身体に鞭を打ち、体を動かし、その穴から腕を出した。


「はい、よくできました。それでは……少しチクッとしますよ」


学長はどこからか取り出した注射器を俺の腕に刺し、薬液をゆっくりと注入する。


「怖がることはありません。これでひろみさんも、立派な女の子になれますよ……。だけどね、他の生徒と全く同じわけにはいきません。

だから、このお薬はちょっと特別。周りよりも少しだけ“積極的”な女の子になれますよ……」


俺はその言葉を聞きながら、意識を失っていった。



【4章につづく……】


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Comments

CZ-603C

投稿ありがとうございます。 ドキドキしながら、読ませていただきました。 これからひろみが、どうなっていくのか。 どう、あの場面に繋がっていくのか、楽しみです。