Home Creators Posts Import Register Favorites Logout

Content

午前0時を過ぎると、店内から人の気配が一気に消える。

ウォークイン冷蔵庫から響く低い駆動音と、天井のスピーカーから流れる軽快な店内放送。

不釣り合いな明るさだけが、静まり返った店内を満たしている。

品出しも清掃も終わり、やるべき仕事はもう残っていない。

僕はレジカウンターの中で、進みの遅い時計を何度も見上げる。

そんな僕の隣で、店長が悪戯っぽく口元を緩める。

「ねえ。今日のバイト中、ミニスカートを穿いて過ごしてくれたら、時給を500円上げてあげる」

「……は?」

聞き間違いかと思い、思わず店長の顔を見返す。

けれど店長は笑ったまま、レジカウンターの下から濃紺の布を取り出した。

ぱさり、と乾いた音を立てて広げられたのは、女の子用のプリーツスカートだった。

丈は明らかに短い。穿けば膝どころか、太腿まで隠しきれないことは一目で分かる。

「無理ですよ。誰か来たらどうするんですか」

「だから面白いんじゃない♡」

店長は当然のように言い切る。

こんなものを穿いてレジに立つなんて、普通では考えられない。

それなのに、頭の中では時給500円という数字がちらついている。

深夜割増に加えて、さらに時給500円アップ。

今日の残り時間を耐えるだけなら、決して小さくない金額だ。

「……本当に、500円上がるんですよね」

僕が確認すると、店長の笑みがさらに深くなる。

「もちろん。最後までちゃんと穿いていられたらね」

(数時間だけだ。カウンターの中にいれば見られることもない)

そう自分に言い聞かせ、僕はスカートを抱えてバックヤードへ入る。

ズボンを脱ぐと、冷えた空気が剥き出しの脚を撫でる。

急に心細くなり、反射的に太腿を寄せた。

濃紺のスカートを広げ、恐る恐る片脚を通そうとした、そのときだった。

「あっ、言い忘れてた」

振り返ると、店長は扉の隙間から顔を覗かせ、何かを指先に引っ掛けていた。

「穿くなら、これもセットだからね♡」

「え……?」

ひらひらと揺れる、小さなピンク色の布。

それが何なのか理解した瞬間、僕は慌てて後ずさる。

「は!?さすがにこれは無理ですって……」

店長から渡されたのは、どう見ても女の子用の下着だった。

薄い生地に、小さなリボンまで付いている。

「嫌ならやめてもいいよ?」

店長はそう言いながら、僕の脱いだズボンを拾い上げる。

そして、それを自分の背後へ隠した。

「ただし、もうズボンは返さないけどね。パンツも穿いてくれないと、時給アップは難しいなぁ」

一度、時給を上げて貰えると思っていたので、今さら止めるのも嫌だ。

僕は震える指でピンクの下着を受け取る。

(大丈夫……深夜だから人もそんなに来ないから……)

そう言い聞かせながら片脚ずつ通すと、薄い布がするりと肌を撫でる。

男物とはまるで違う頼りない感触に、腰まわりが妙に落ち着かない。

最後に小さなリボンの位置を確認した瞬間、自分が本当に女の子の下着を身につけているのだと実感し、頬が一気に熱くなる。

その上から、濃紺のプリーツスカートを穿く。

腰まで引き上げると、裾がふわりと広がった。

下半身がほとんど布に守られていないような心細さに、僕は反射的に両手で前を隠す。

(こんな格好で、本当にレジに立つの……?)

僕は何度も裾を引っ張り、少しでも脚を隠そうとしてから、バックヤードのカーテンに手を掛ける。

「……着替えました」

恐る恐るカーテンを開ける。

待っていた店長は何も言わず、僕の顔から胸元、腰、そして剥き出しになった脚へと、ゆっくり視線を落としていく。

その目つきだけで、全身を隅々まで見られているような錯覚に陥る。

「似合ってる。想像してたより、ずっと可愛いよ♡」

「み、見ないでください……」

僕は慌ててスカートの裾を押さえる。

けれど、いくら下へ引っ張っても丈はほとんど変わらない。少し腰を曲げるだけで裾が持ち上がり、膝より上の太腿があらわになる。

「そんなに隠さなくてもいいのに。せっかく可愛い脚してるんだから」

「……僕は男です……」

否定する声は、自分でも情けなくなるほど弱い。

僕が戸惑いながらレジへ入った。

Files

Comments

No comments found for this post.