【続】メンズメイク体験から始まった、僕の女装堕ち:1 (Pixiv Fanbox)
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日中のピークがひと段落したころ。
レジカウンターの向こうから、わたしは店内をゆっくりと見渡す。
(今日も、誰かいないかな)
レディースコーナーの端で、一人の若い男性が立ち止まっていた。
視線はスカートのラックへ向いている。
けれど近くに他のお客さんが来るたび、何事もなかったような顔で隣のメンズコーナーへ移動する。
少し時間を置いて、また戻ってくる。
今度はブラウスを手に取ろうとして、指先でそっと触れるだけ。
誰かに見られていないか周囲を確認すると、慌てて手を引っ込めた。
その仕草を見た瞬間、胸の奥が熱くざわめく。
(……あの子、興味があるんだ……女の子の服に……)
わたしは自然な笑顔を浮かべると、警戒させないようゆっくりと歩み寄った。
「こんにちは。何かお探しですか?」
「あっ……!」
彼はびくりと肩を震わせて、顔を上げる。
二十代前半くらい。黒髪を無造作に下ろしていて、少し頰が赤い。
「あ、いえ……妹の誕生日に何かと思いまして……」
……やっぱり。
わたしは心の中だけで、小さく微笑んだ。
「そうなんですね。妹さん、おいくつなんですか?」
「えっと……高校生です」
少しだけ間が空いた。
その一瞬のためらいだけで、十分だった。
女の子の服に興味がある男性はみんなそう、決まって誰かの名前を借りる。
彼女、妹、奥さん……プレゼントを買いに来ると言うのは、言い訳の定番中の定番。
バレていないと思っているのは本人だけで、ショップの店員はみんな分かっている。
分かっている上で気づかないフリをしているのだ。
目の前にいる彼。
服を見る目、生地に触れる指先。周囲を気にする仕草。
そのすべてが、【自分の服を選びたい】という気持ちを隠しきれていなかった。
◆
「じゃあ、わたしが妹さんが気に入りそうなのを選んでみますね。ちょっと待っててください」
わたしは手早く、淡い黄色のショート丈ブラウスと、シンプルな白のミニスカートを選んだ。
「こんな感じはいかがですか?」
彼は服を見つめると、思わず頬を緩めた。
「わぁ……可愛いですね。妹も、きっと気に入ると思います」
わたしは微笑み返すと、何気ない口調で尋ねる。
「ちなみに、妹さんは身長どれくらいですか?」
「えっと……僕より少し小さいくらいです」
「なるほど、お兄さんより少し小さいくらいかぁ」
軽くうなずいたわたしは、ブラウスを手に取ると彼の前へ歩み寄った。
「サイズ感だけ確認したいので、ちょっと失礼しますね」
「えっ……?」
返事を待つ間もなく、ブラウスを彼の胸元へふわりと当てる。
「ちょ、ちょっと……」
彼は慌てて一歩下がろうとする。
けれど、わたしは気にした様子もなく肩幅や袖丈を目で確かめた。
そのまま今度はスカートも腰のあたりに軽く合わせてみる。
「うん、妹さんならMサイズくらいがちょうど良さそうですね」
「あ……そ、そうですか」
彼はぎこちなく笑いながらうなずく。
その耳は、さっきよりも赤く染まっていた。
わたしは手にしたブラウスを見つめながら、小さく首をかしげる。
「でも……これ、妹さんに似合うかどうか、実際に着たところを見ないと何とも言えないんですよね」
そこで、わたしはふと思いついたように顔を上げた。
「あ、そうだ。もしよかったら、お兄さんが試着してみませんか?」
「えっ?ぼ、僕がですか!?」
思わず裏返った声に、わたしはくすりと笑う。
「はい。もちろん妹さんのために、雰囲気を見るんですよ」
そう言って、ブラウスを軽く持ち上げる。
「兄と妹って、お顔立ちや雰囲気が似ていることが多いじゃないですか」
「……」
「だから、お兄さんに似合うデザインなら、妹さんにもきっと似合うんです」
彼は黙って話を聞いている。
「それに、身長も近いなら丈感やシルエットも確認できますし。試着室なら人目も気になりませんし、ほんの数分で終わりますよ」
わたしは試着室のカーテンをそっと開けた。
「ね?せっかくの妹さんのプレゼントなので……」
彼は試着室と、わたしの笑顔を何度も見比べる。
迷いながらも、腕の中のブラウスを見つめるその表情は、どこか期待を隠しきれていなかった。
やがて小さく息を吐き、「雰囲気だけ」と、観念したフリをして試着室へ足を踏み入れた。
◆
カーテンが閉まり、薄い布越しに、衣擦れの音が聞こえてくる。
シャツを脱ぐ音。ズボンを下ろす音。
そしてスカート穿き、ブラウスのボタンを留める音。
わたしは、什器に置かれた服を畳みながら、静かに待った。
しばらくして、カーテンがほんの少し開く。
「……す、すみませ……ん。一応、着てみました……」
わたしはカーテンを大きく開いた。
淡い黄色のショート丈ブラウスは、男性の肩幅に少しきつめに張りついている。
胸元のボタンは、どうにか留められているものの、布地がぴんと張って、その下の輪郭をわずかに浮かび上がらせていた。
白いミニスカートは、腰のあたりで少し余っているのに、裾は太もものかなり上で止まっている。
わたしは一瞬、息を飲んだ。
「ふぅん」
低く、短い吐息。
彼がびくりと肩をすくめる。
「……嬉しそうですね」
「えっ……?」
「顔、緩んでますよ。口元」
彼は慌てて手で口を覆う。
その仕草だけで、もう十分だった。
「妹さんのための試着、ですよね?なのに、自分の女装姿を鏡に映して、にやにやしていませんか?」
「ち、違います……!ただ、雰囲気を……」
「雰囲気?」
わたしは一歩、試着室の中へ踏み込む。
彼は後ろへ下がろうとして、壁に背中をつけた。
「本当に女装が嫌なら、試着なんてしませんよ?試着室に入った時点で、答えは出てます」
「……」
「それに、鏡を見る目。『自分自身』を見てる目ですよ。妹さんのことなんて、もう頭から消えてます」
彼の耳が真っ赤になる。
頰も、首筋も。
「否定しないんですね」
わたしはゆっくりと彼の全身を上下に眺めた。
視線を感じるたびに、彼の指がスカートの裾をきゅっと掴む。
「男の人が、女の子の服を着て、こんなに嬉しそうな顔をするなんて」
「う、嬉しくなんか……」
「してますよ。目が泳いでるくせに、視線は何度も鏡に戻ってる。自分の脚を見て、ブラウスの袖を見て……恥ずかしいのに、嫌いじゃないんでしょう?」
彼はうつむいた。
唇を噛んで、何も言い返さない。
わたしはさらに一歩近づき、声を一段低くした。
「妹さんなんて本当はいないんでしょ?正直に言って下さい?」
「っ……!」
彼の肩がびくりと跳ねる。
唇はさらに強く噛み締められ、頰が内側から熱を帯びて赤く染まっていく。
わたしは黙って彼を見つめた。
答えを急かさない。
ただ、静かに、容赦なく、視線だけを送り続ける。
数秒が、異様に長く感じられた。
やがて、彼の喉が小さく動いた。
「……い、いません……」
やっと絞り出した言葉は、ほとんど聞こえないほど小さかった。
「聞こえないです。もう一度、はっきりと言って貰えますか?」
「……妹は、いません……。嘘でした……」
彼は顔を上げようとして、途中で諦めたようにまたうつむく。
額に薄い汗が浮かんでいる。
わたしは小さく息を吐いた。
満足と、少しの残酷さを混ぜた吐息。
「最初から分かっていましたよ。バレバレでした」
「……す、すみません……」
「謝らなくていいです。正直に言えたのなら、大丈夫です」
わたしは彼の耳元に口を近づけて囁く。
布地がわずかに引き寄せられ、彼の体が前に傾く。
「でもね。お兄さんは嘘をついてまで女の子の服を着たかったんです。そのこと自体は、ちゃんと覚えておいて下さい」
彼の息が乱れる。
肩が小さく上下している。
「じゃあ、最後に教えて下さい。今、女の子の服を着れてどんな気分ですか?」
彼は唇を噛んだまま、俯いたまま動かない。
沈黙が、試着室の狭い空間に重く沈む。
「聞こえてますか?答えてください」
彼がより一層、顔を真っ赤して口を開いた。
「お、女の子の服を着れて……女装ができて嬉しいです……」
わたしはにっこりと笑う。
「よく言えました。この服は一式お買い上げでよろしいですね?」
「はい……」
わたしはそのまま着ている服のタグをすべて切り、彼が脱いだズボンとTシャツを手に取り、素早く畳んで紙袋へ押し込んだ。
「え?ちょっと……」
「このままお会計しますので、それは着て帰って頂いて大丈夫ですよ」
彼はスカートの裾をきゅっと握りしめ、一歩も動こうとしない。
頰は真っ赤なまま、視線は床に釘付けだ。
「さ、早く……」
わたしは紙袋を彼の胸に押しつけるように渡し、静かに背中を押した。
彼は小さく息を吐き、覚悟を決めたように、白いミニスカートのまま試着室を出た。
通路の照明が、淡い黄色のブラウスと短いスカートを容赦なく照らす。
店内の他のお客さんの視線が、一瞬彼に止まる。
そのたびに彼の肩がすくみ、歩幅が小さくなる。
わたしは彼の前を歩き、レジカウンターへ向かった。
タグを読み取り、合計金額を告げる。
彼は震える手でスマホを取り出し、端末に置き、決済を行う。
「レシート、いりますか?」
「……あ、一応……」
か細い声。
わたしは会計を終えると、彼を店の出口まで見送った。
「ありがとうございました。またのご来店、お待ちしてますね」
そのまま小さくうなずくと、スカートの裾を押さえながら、足早に店を出て行った。
(また一人の男の子を沼らせちゃったかな……。昔のわたしみたい……)
小さく微笑むと、ポケットの中で、スマホが小さく震えた。
『啓、今日の夜って大丈夫?いつもの所に集合ね』
……わたしの下腹部が、熱く疼いた。
【2章へつづく……】