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前回

ふすまの向こう側で、唐突にパタパタという足音が響いた。

「ちょっと、お手洗い行ってくるわ」

凛の声だ。どうやら宴会の途中で席を立ったらしい。

廊下の古い板張りが、きしり、きしりと微かな音を立ててこちらの部屋へと近づいてくる。

その足音に気付いたユミの身体が、私の下でビクッと大きく跳ねた。

私は咄嗟に彼女の柔らかな唇を塞いでいた手のひらにぐっと力を込め、さらに強く、一切の音を逃さないように押さえつける。

「んんっ……!!」

息を呑むような、くぐもった甘い悲鳴。

ユミはパニックを起こしたように両手で私の腕を掴んだが、私はその細い手首を難なく払いのけ、畳の上へと乱暴に縫い付けた。

足音が、ちょうど私たちの部屋の前でピタリと止まった。

薄い障子一枚、ほんの数十センチ先の廊下に凛が立っている。

ユミの鼓動が、私の肌を通して痛いほど伝わってくる。緊張と恐怖で極限まで張り詰めた彼女の身体は、小刻みに、しかし激しく震えていた。その震えが浴衣の擦れる微かな衣擦れの音を生み出し、静まり返った暗い部屋にひどく響く。

『……な、なに……?』

障子の向こうで、凛が微かに息を呑む気配がした。

『もう、桜が変な怪談の話なんてするから、無駄に敏感になってるじゃないの……』

独り言のように呟く声には、明らかな動揺が混じっている。魔術師としての鋭い勘が、この部屋から漏れ出す異常な「熱」と「気配」を微かに察知したのだろう。

だが、私が霊基を極限まで抑え込み、殺気すらも消し去っている今、凛にこの密室の情事を確信することは不可能だ。

『……気のせい、か。あの二人も、さすがにもう寝てるわね』

小さく息を吐き出す音が聞こえ、再び廊下がきしむ音が遠ざかっていった。手洗いの方向へと向かうその足音が完全に消えるまで、私はユミの唇を塞いだまま、冷徹な視線で彼女の顔を見下ろし続けた。

足音が聞こえなくなり、再び隣室の遠い喧騒と、縁側の風鈴の音だけが残る。

私はようやく、ユミの口元からゆっくりと手を離した。

「ぷはっ……! はぁ、はぁっ、はぁっ……!」

堰を切ったように、ユミが激しく酸素を貪る。汗ばんだ胸元が大きく上下し、はだけた浴衣から覗く白い双丘が、月明かりの下で艶かしく波打った。

「まったく。本当にバレたいのですか?」

私は冷ややかに言い放ち、逃げ場を失っている彼女の耳元へと顔を寄せた。

「あのまま貴女が声を上げていれば、確実に凛がこの障子を開けていた。……この無様に乱れた貴女の姿が、奴らに晒されていたことでしょうね」

「ちがっ……はぁっ、そんなんじゃ……っ」

首を横に振り、涙目で必死に否定するユミ。

だが、その言葉とは裏腹に、彼女の身体はあまりにも素直な反応を示していた。

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